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第12話(最終話)「それでも掘る者」
> 「――聞こえる。まだ、この下で“何か”が待ってる」
空が裂けた。
熱と鉄の匂いを巻き上げて、崖の上から崩れ落ちる金属の雨。
その中央に、**掘削船《ギアノート》**は傾きながらしがみついていた。
操縦席では、カンナがゴーグルの奥の瞳を細めていた。
赤茶の三つ編みは熱で広がり、袖は泥と血にまみれている。
けれどその手は、まだドリル《吠える爪》のグリップを離していなかった。
「カンナ!もう限界!船が持たない!」
ミレの焦げ茶の髪が爆風で跳ねる。
背中の工具袋はほとんど空。整備班としてできることはもう尽きていた。
キイロも肩で息をしながら、片目を閉じてうめく。
「音が……地面の音が、痛がってる……。でも、真下だけは……静かだ」
そのときだった。
採掘獣ヤスミンが、低く、震えるような鳴き声を上げた。
それは“泣いている”ような音だった。
「……あたしも、同じの感じてるよ」
カンナはつぶやくと、ドリルを肩に構えた。
> 「ここには、まだ誰かの“願い”が眠ってる気がする」
爆炎が船の下をなめた。
崖がひとつ、崩れ落ちる。
ドリルが熱に耐えきれず、軋む音を立てる。
けれど、その奥から、微かに風が吹いた。
風ではなかった。
音でもなかった。
ただ、“引かれる”感覚だった。
「――撃つ!」
カンナはギアノートの重心を崖の傾斜に任せ、
跳躍と同時に、ドリルを真下に突き立てた。
ガアアアアアアアアンッッ!!!
地面が裂ける。
金属が叫ぶ。
吠える爪が、最後の一撃を貫くように回る。
そして――
振動が、止まった。
……静かだった。
カンナの手には、もはやドリルの熱も感じられなかった。
ただ、そこに残っていたのは、“何かをやり遂げた”という感触だけだった。
「いたよね……」
誰に聞かせるでもなく、つぶやく。
“誰か”の名前も、声も、姿もわからない。
けれど、確かにここに“いた”。
それを、今、感じていた。
ミレは肩を落として座り込み、キイロは機械を撫でるように抱えた。
ヤスミンが、尻尾をふるりと振った。
風が吹いた。
ただの風。
けれど、その風の向こうには、もう“空白”ではなく、掘られた形跡が確かにあった。
崖の上、夕陽が金属片を照らす。
ギアノートのドリルはもう止まっていたが、刃先にはかすかに“光”が残っていた。
「さ、戻ろうか。次、どこ掘る?」
カンナは立ち上がり、ドリルを背負う。
その姿は、どこか前よりも**“まっすぐ”になっていた。**
それでも掘る者として。
掘ったその先に、誰かがいたと信じる者として。