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百合は家政婦達の評判が悪かった、洗濯物なども家政婦に押し付け、礼の一つも言わないと家政婦達は百合の事を陰で悪口を言っていた、坊ちゃまはいつあの娘を家に帰すのだろうとさえ言っていた
鈴子も百合の影響を受け、美しくなりたいと心から思う様になったのもこの頃だった、何時間も鏡を見つめ、 ここがもう少しこうなれば、あそこがもっとこうなればと、一人で無益な悩みを繰り返していた
鏡に向かって百合が兄にする様に唇を突き出し、セクシーな流し目を真似してポーズをとってみたが、ただトイレを我慢してるみたいな仕草になるだけだった
自分は百合のようにモデルタイプでもないし、美人コンテスト向きでもないことがよくわかった、体つきは・・・まあまあだと思うのだが、ただそれだけで、際立ったものはなさそうだった
兄は百合を見つめる顔が本当にだらしなくて見ていられなかった、それと同時に男性をくねくねと文字通りこれほど骨抜きにする百合が羨ましかった
運転手も庭師も・・・屋敷の男性はみんな百合の前に出ると頬を染め、なんとか彼女を笑わそうとした
鈴子が一番望んでいたのが、この際立つことだった、百合の様にみんなの憧れになるような人になりたい、周りの人に注目され、いつも噂されるような、何か特別優れたものが自分にあって欲しかったのだ
そしてなんと父親の隆二も百合をそんな目で見つめている事に気が付いた時は鈴子は相当ショックで何日も眠れなくなった
兄は百合の美しさにすっかり魅せられて、彼女をわが家の女神として迎えることを喜んでいた
百合は兄には常に優しく、あれだけしつこくつきまとわれても驚くほど寛大だった、兄の若々しい熱意と献身を面白がって見ていたのだと思う、どんな時でも嫌な顔をせず、兄の献身的な恋人役に徹底していた
しかし兄が学校などで家にいない時は、リビングの柳の枝で編んだ肱掛け椅子にものうげに座り、散り落ちる庭に咲いている、藤の花を眺めるフリをして、その視線の先に庭を挟んだ父の書斎を見つめていた、父も書斎の窓から何度か百合を見つめていた、鈴子はそれ以上見ていられずその場を離れた
兄が百合と二人で何やら楽しそうにリビングで笑っていると、父がキツイ声で兄に「庭にある芝を刈ってこい」と兄に言いつける、兄が怒りにさっと顔を赤らめると、百合は黙って同情するように兄の頬を撫でながらも、してやったりと片方の目でチラリと父の怒りを観察するのだった
鈴子が一番嫌だったのは、父の方こそ兄の何倍も激しくいつも飢えたような目で百合の姿を追いかけていることだった、そして百合は兄を使って父をじらしているのだと鈴子はその時悟った
その父の目を見ると、鈴子は母が元気な時にうちで飼っていたスパニエル犬を思い出した、餌をもらう時や庭の獲物を狙っている時の犬と、今の父と全く同じ黒く光る目をしているのだった