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その頃には父の深酒は使用人も鈴子も誰にも止められなかった、兄はというと鈴子や使用人の前でも手を出して、百合の体に触らないではいられないという感じだった
手を繋いだり、肩を揉んだり、腰を抱いたり、時には見ているのも憐れに感じるように常に百合にベタベタ触っていた、そして和樹がいなくなったら今度は父が百合の傍にやってくるのだった
百合の体は父に対しても磁石のような働きをしていた
百合は白いクールな美しさで常に父を惹き付けたが、同時に父に何も与えなかった、鈴子の感じ方では雪の様に冷たかった
でも、時々百合の目が静かな笑みをたたえて父の方を見ることがあると、父は不安げに身じろぎし、鈴子が恥ずかしくて顔をそむけたくなるような表情を目に浮かべるのだった
尊敬する父に、そんな様子を強いる百合を鈴子は憎んだ、百合は兄や父が自分に向けられる熱情と同じように、鈴子が自分に向ける憎悪を知ってて楽しんでいたに違いない
そしてとうとう庭の薔薇に隠れて父と百合が抱き合っている所を鈴子は目撃してしまった、意を決してある日、鈴子は一人でピアノを弾いている百合に話しかけた
「ねぇ!パパとお兄ちゃん、どっちが好きなの?」
これ以上パパを惑わすのを止めてよ!あなたはお兄ちゃんの恋人でしょ!
鈴子は心の中で叫んだ、すると百合が氷の様に冷たい視線を12歳の鈴子に浴びせかけた
「子供は口を出さないで、勉強でもしてなさい」
鈴子はカッとなってその場から離れた、屈辱的な怒りにかられて、庭の柿の木によじ登って何時間も木と一体化した、そして自分の将来を考えた
―嫌い!嫌い!お兄ちゃんも、パパも、あの女も!ここは私の家なのに!みんなママの事も私の事も忘れて好き勝手している!やっぱりこんな家出て行ってやる!春になったら寄宿学校へ行こう!そこで私も楽しくやってやる―
半ばやけくそで猛勉強した、あの男性に媚と冷笑で固めた女にうちの男どもは夢中だ、みんないやらしい!
こんな家族どうなっても知るもんか!
そしてあの運命の悲劇の夜が訪れた
マグニチュード7と言えば鈴子の家の六麓荘の山の上は激しく揺れた、家財も総倒れ、ダイニングのシャンデリアは激しい音を立てて天井から落ちて砕けた、道路もあちこち陥没し、マンホールは地下の熱で飛び出した
家政婦達はみんな悲鳴をあげて、自分の家の様子を見に行ってしまった、そしてまた揺れた、その揺れと同時に、なにか銃が暴発するような音が屋敷から響いた、しかしすぐに辺りは停電になり、また何度も何度も揺れた、あちこちで火事が起こり、パトカーや救急車のサイレンがひっきりなしに鳴っているので父と兄の発見が遅れた
鈴子は恐ろしくてベッドの下に隠れてひたすら父を呼んだ
そしてやっと自身がおさまり、家政婦が二人を見つけた頃には、死後硬直が始まっているぐらい時間が経っていて、百合は行方不明になっていた