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きなこもち
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#サレ妻
都築七美
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「さぁて」
榊は椅子に深く座り直すと、シャツの袖を軽くまくった。
カフェの窓際に奈緒らしき人物が写っていた写真と、奈緒のSNSを並べたまま、再びキーボードへ手を伸ばす。
「服装が分かってるなら、もう少し絞れる」
「え……できるんですか?」
「イベント期間中は三日間。その格好で写ってる写真を中心に探す。店の中じゃなくても、出入りするところがどっかに残ってるかもしれない」
榊の指がキーボードの上を滑り、主催者や周辺店舗のSNS、イベントを訪れた人が公開している写真や動画が次々と画面に表示されていく。
一花も神崎と並んでモニターへ目を凝らした。
(見つかって)
そう願った次の瞬間には、正反対の気持ちが込み上げてくる。
(お願い。見つからないで)
水野に自分のことを話した人間がいるのなら、その正体を突き止めたい。
真実を知りたいという気持ちは確かにあるのに、それが奈緒であってほしくないという思いも、同じくらい強かった。
榊が次の写真を開くたびに、見つかってほしい、見つからないでほしいという二つの願いが交互に胸を締めつける。
(私、どっちを望んでるんだろう)
自分でも分からないまま、気づけば奥歯を強く噛みしめていた。
ぎり、と力が入った瞬間、頬からこめかみにかけて引きつるような痛みが走る。
「……っ」
「桜井さん?」
神崎がすぐに一花を見る。
一花は反射的に頬へ手を伸ばしかけたが、その手を神崎がそっと取った。
「触らないでください。あまり力むと、傷に障ります」
一花ははっとして、ようやく奥歯の力を抜いた。
「すみません……」
「ゆっくり息をしてください。急がなくて大丈夫です」
穏やかな声に促され、一花は息を吸った。けれど、肺の奥までうまく空気が入っていかない。
「ゆっくり吐いて」
神崎が呼吸を合わせるように息を吐く。
一花もそのリズムを追うように何度か呼吸を繰り返すうち、浅くなっていた呼吸が少しずつ整っていった。
「……ありがとうございます」
「無理はしないでください」
一花は小さく頷き、再びモニターへ視線を戻した。
その時、ふと俊介の顔が浮かぶ。
(もし、本当に奈緒が関わってたら……俊介にも話さないと)
高校時代から、三人で過ごしてきた。奈緒は一花だけでなく、俊介にとっても長い付き合いの友人だ。
けれど、そう思った途端、以前の俊介の言葉が耳の奥に蘇った。
『もう、忘れたいんだ』
火事のことも、水野のことも、これ以上考えたくないというように俊介はそう言っていた。
まだ奈緒が関わっていると決まったわけではない。曖昧な疑いだけを伝えれば、俊介まで余計に苦しませてしまうかもしれない。
(全部、はっきりしてからにしよう)
真実が分かった時、その時にきちんと話せばいい。
一花はそう自分に言い聞かせ、再び画面へ意識を戻した。
どれほど時間が経ったのだろう。
写真が何枚も切り替わった末、不意に榊の手が止まった。
「……あった」
一花の心臓が跳ねる。
神崎もすぐにモニターへ顔を向けた。
「これ」
榊が一枚の画像を開く。
一花は神崎とともに画面を覗き込み――息を止めた。
コメント
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第27話、読み終えました! 「見つかってほしい」と「見つからないでほしい」が同時に渦巻く、一花さんの複雑な胸の内がすごく伝わってきました。神崎さんが呼吸を整えさせるシーン、あの優しい距離感がとても好きです。そしてラストの「あった」! 続きが気になって仕方ないです!