テラーノベル
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朝日で目を覚ますと、所々汚れたシーツと、裸の自分がいた。
枕元には買ってきたばかりの人形。
いつの間にか眠っていたらしい。
随分と生々しい夢を見ていたようだ。男に抱かれて、繰り返し昇天する夢。欲求不満だったのかなと、怠い腰を起こして、起きてすぐにシーツを取り替えた。服も身に付けずに寝ているなんて初めてのことだ。一人暮らしだが、少し恥ずかしい。
人形を元の位置に戻すと、なんとなく昨夜の夢の余韻が甘く身体に残っていて、知らずと勃ち上がっていた自身を右手で包んだ。
夢で逢った理想の男のことを思い出し、屹立を慰める。上下に何度か擦り付けると、快感にとらわれ、すぐに達しそうになった。飛び散らないようにイク寸前にティッシュで先端を包み、後は勢いに任せて放出した。
かたん。
室内で何か物音がしたかと思うと、ベッドサイドに戻したはずの人形が床に落ちている。元の位置に戻して、大学院へ行く支度を整えると家を出た。
学校には友達がいない。
引っ込み思案で、セクシャリティも隠しているので目立たないように心掛けて生活していている俺に友だちなんか一人も出来ようがなかった。いつものことだ。孤独は感じない。孤独に対する感覚はここまでの人生でもはや麻痺しているといってもいい。
こんな俺に恋人なんて、ましてや同性の恋人なんてできるはずがなかった。
夢か現かわからないような、昨夜の強姦魔のことを思い出した。起きて玄関を確かめたら施錠されていたから、夢であった可能性の方が高い。陰気な自分の、歪な妄想を具現化したのだと仮説を立てると、一番納得がいった。
思いつきで学校帰りに、例の骨董屋に寄ってみることにした。
昨日の若くて色白の美青年(ここだけの話、あの人もかなり好みだった)は突然辞めたとかで、その美青年の幼馴染だという落ち着いた若者が接客をしている。こちらの方もタイプは違うが、和風で綺麗な顔立ちをしていた。
💚「アレッ。ここにあった花嫁人形は?」
❤️「ああ。今朝から在庫一掃セールに出していたんですが、先ほど売れてしまいました」
💚「在庫一掃セール…」
❤️「翔太…あ、俺の幼馴染なんですけど、何でもバラで売ってしまって、残された片割れがたくさんあるんです。ほら、ここに」
ワゴンには確かにペアの片翼を担うような商品がこれまた雑多に並んでいる。そしてこの店はとことん整理整頓が苦手らしく、食器からカードから、もちろん人形もいくつかごちゃ混ぜに入っていた。
❤️「お客様には申し訳ありませんが、あの花嫁人形は高価なものだから、早めに買い手が付いてよかったです」
💚「ちなみにいくらで売ってたんですか?」
❤️「8000円です」
なるほど。翔太と呼ばれた青年がクビになったのもわかる気がする。
❤️「ああいった人形をお探しでしたら、こちらにもたくさんありますよ。ペアでならお譲りできます」
💚「いや、大丈夫です。ありがとうございます」
❤️「またお待ちしております」
花嫁人形が安かったら買ってもよかったけど、これも縁というものだろう。タキシード姿の花婿人形はこれで永久に独身であることが決まってしまった。
あれ?
俺なにか肝心なことを忘れている気がする…。
何だろう。
コメント
4件
やばい…主様のお話見るの初めてだけど、早速沼りそう…、 続き楽しみにしてます!