テラーノベル
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屈辱的だ。
実に屈辱的だ。
たった一夜の契りでは、俺は人間になれなかった。あろうことか、亮平は俺の目の前で自慰までしていた。俺じゃ物足りなかったというのだろうか。
丑三つ時を待って、人間の身体になる。夜明けが早い今の季節は、愛し合う時間も足らないのかもしれない。寝床を覗き込むと、純粋無垢な、しかし、抱くと忽ち商売女のように乱れる感度の良い新妻があどけない顔で眠っていた。
🖤「起きろ」
口付けると、何度か瞬きを繰り返し、ようやく目を開けた。
💚「あ。強姦魔」
🖤「誰がだ💢」
こいつ、生涯の伴侶を捕まえて相変わらず犯罪者呼ばわりだ。初めてだというから優しく愛してやったのにその恩すらもすっかり忘れている。
🖤「亮平、俺が好きか?」
💚「あれって夢じゃないの?それともこれは夢の続き?」
寝ぼけているのか、現実から逃げている。
なんてことだろう。
俺の人間になるという夢はこの妻にかかっているというのに。このままじゃいくら抱いても、永遠に俺に血肉は通わない。固くて冷たいセルロイドのままだ。
🖤「俺を好きになれ」
💚「いきなりそんなこと言われても…。俺、あなたのことよく知らないし」
何ということだ。
俺としたことが、大切なことを忘れていた。
というか、知らなかった。生まれながらに対になるべく生産される俺たちは、恋に至るプロセスについてあまりにも無知だったのだ。
🖤「何でも聞け。何でも答えてやる」
💚「え、じゃあ、蓮はどこ出身?」
🖤「今はもう廃墟になった、◯×県の片田舎の工場だ。こういった人形は流行らないからもう作っていない」
💚「また変なこと言って…。そんなに出身地を隠したいの?通報はしないよ」
🖤「ツーホー?」
💚「強姦魔のくせに、やけに優しかったし、嫌な思いもしなかった。それにこうしてまた襲いに来るなんて。俺で最後にしなよ。警察には特別に言わないでおいてあげる。何も盗られてなかったしね。…あ、でもコレそもそも夢か」
🖤「夢じゃないというのに。俺と君は結婚したんだよ」
💚「またまたぁ。俺、貴方の名前しか知らな…」
口付けると、黙って、とろんとした目で俺を見つめる。結構俺のことを好きそうなのに、なぜ上手くいかないんだろう。
💚「いきなりキスとか、やめてよ///ドキドキする」
🖤「それは、恋という意味で?」
💚「え。あー、うん、どうだろう???」
なんとも頼りない返事。もしかしてこの結婚は失敗なのだろうか。人間って、どうやって結婚するのだろう。疑問をそのまま亮平にぶつけると、意外な答えが返って来た。
💚「恋ってそんなに簡単じゃないよ?お互いのことをよく知って、デートしたり、付き合う期間があって、あ、その前に告白とかもあるな…俺、まだどれもしたことがなくて///」
なんと。
こいつは恋はおろか、想いを人に伝えたこともないのか。なんて難しい相手を伴侶に選んでしまったんだろう。俺は頭を抱えた。
🖤「身体を重ねるだけでは、駄目なんだな」
💚「いきなりそういうのは、一番最低です。少なくとも、俺はそう思う」
叱られた気がして、少し落ち込んだ。そして、知らぬ間に夜明けが来て、俺は人形に戻った。
コメント
1件
こりゃあべちゃんは手強いんだろうな笑