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中学から大学まで『女子校』だった美緒は、男性が苦手だった。
容姿端麗な美緒に「付き合って」という男性は多いが、勇気が出ない。
交際経験が無いまま、女子大を卒業して〈総合商社〉に入社した。
大手企業に就職すると、熾烈な競争が始まった。
男女共学校から入社した女性は、コミュニケーション能力が高い。
社内でも社外でも人脈を築いて、仕事を成功させていく。
内気で人見知りの美緒は、同じ部署の女性と話すのが精一杯だ。
その同僚が、トイレの手洗場で美緒の噂をしていた。
「藤崎さんて、戦力外だね」
「美人だから仕事しなくていい、て思ってんでしょ」
「就職は『結婚相手探し』ってことかぁ」
トイレの個室にいた美緒は衝撃を受けた。
(私も仕事したい)
(結婚なんて興味ない)
無意識のうちに、ギリギリと奥歯を嚙み締めた。
すぐに仕事を辞めたかったが……、
(すぐに辞めたら恥ずかしい)
(両親に申し訳ない)
(辞めます、って言い難い)
美緒は真面目で律儀な性格だ。3年間は我慢した。
だが耐えきれずに、25歳で大手企業を退社した。
27歳までは、実家近所のカフェで週3日のアルバイトをした。
精神的疲労は無くなったが「いつまでもバイトでは」と焦り始めた。
そのころ、宅配便の営業所が正社員を募集していることを知った。
面接に行くと、すぐに採用の連絡が届いた。
(どんな場所だろう? どんな人がいるんだろ?)
不安だったが、ここには〈競争〉が無かった。
美緒の能力で仕事ができた。
「いい人が入ってくれた。助かる」と上司に感謝された。
同僚の香帆は、明るくて素直な1歳年下。上手く付き合えた。
宅配便ドライバーも、みんな親切で優しい。
特に気になる人がいる。
その人は、美緒には聞き慣れない『関西弁』で話し掛けてきた。