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「藤崎さん、俺が運んだる」
大きな荷物を『受付』で預かると、倉庫まで運んでくれた。
「藤崎さんのお陰で怒られへんかった。ありがとう」
小さなミスをカバーすると、アイスクリームを差し入れてくれた。
「しんどそうやな、無理したらアカン」
疲れて落ち込んだら、気遣ってくれた。
「いつも頑張ってんなぁ、エライと思うで」
仕事を理解して、認めてくれた。
「藤崎さんは美人やから、気ぃ付けや」
地域に〈不審者情報〉が出たとき、サラッと容姿を褒めてくれた。
だから……、
佐山颯真さんは「私のことが好きなんだ」と美緒は思った。
こんなに優しくて、大切にしてくれるのは、私を好きだから。
確認しなくても〈お互い〉解ってる。
「待ってたら、告白してくれる」と本気で思っていた。
一年が過ぎて28歳になった。
彼が職場にいるだけで楽しいけど……、まだ告白されない。
(私も好きなことに気付かないのかな)
(彼は『片思い』と思ってるのかな)
じゃあ、きちんと伝えるべきだ。「私もアナタが好きです」って。
でも……、
女から告白するのは変だし。やっぱり告白されたい。
いろいろ迷って29歳が近付いたとき、
「お知らせがあります。佐山君が結婚します!」
朝礼で、上司からのサプライズ発表だった。
この瞬間も、美緒は「私と」と思った。
(みんなの前でプロポーズするの?)と少し恥ずかしくなった。
美緒の感覚は狂っているが、本人はいたって本気だ。
「彼は私を好きなのに言えないだけ」と思い込んでいる。
他人のことを『一方的に決め付ける人』がいる。
そんな人は、思い込みが激しく、自分の考えを絶対に変えない。
自分が正しいと信じているので〈相手に訊ねる〉ことをしないし、
自分の考えや思いを〈相手に伝える〉こともしない。
美緒はそのタイプだった。
朝礼で並ぶ社員の前に、颯真が進み出た。
「え~~、結婚させていただきます。吉田香帆さんと」
香帆が頭を下げると、大きな拍手が起こった。
拍手の音を聞きながら、颯真の笑顔を見ながら、美緒は現実が理解できない。
私を好きなのに、香帆と結婚する? なぜ??
あっ、そうか……、
(彼は香帆に騙されてる!)
美緒はそう思い込んだ。