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「ゴホン! それはそうと和尚様、善悪、お前は声に出さないスキルは使えるのかい?」
二人のイマイチ噛み合っていない会話に業を煮やしたのか、トシ子婆ちゃんが聞いてきた、善悪が片方の口角を歪(いびつ)に引き上げながら答える。
「残念ながら『ダメージ軽減』系のスキルは時限性でござる、持って一分強、上位スキルに至っては一秒未満でござるから使い物にはならないのでござる。 んでも心配御無用! これらをご覧あれい! ババン」
そう言って善悪が懐(ふところ)、袂(たもと)、腰の後方から取り出して本堂の床に並べて見せたのは、スタンガン、ブラックジャック、スローインナイフ、マチェット、特殊警棒、催涙スプレー、濃度五十度を越えたアルコール入りの瓶、ライターオイル、脱脂綿、トドメはちょっと大きめの石であった。
自信満々に胸を張る善悪を、残念な物を見るように蔑(さげす)んだ視線を送っていたトシ子はやや大きめの声で宣言したのである。
「馬鹿だねぇ、よしお! こんなのは玩具(おもちゃ)と一緒だよ、全く! 前々から思っていたんだよ、光影(ミツカゲ)の父昼夜(チュウヤ)は兎も角、アンタは親父の清濁(キヨオミ)に比べて、体格も修行の密度も遜色無いのにヤケに『聖魔力』が低いんだよねぇ~、ま、根性と筋力だけはあの二人より強いのは知ってんだけどねぇ~、良い機会だから、アタイとアスタ、ダーリンでちっと鍛えてやろうじゃないか? どうだい、よしお?」
「えぇー、僕ちんはコユキ殿とニコイチでござるから、いっしょに――――」
「いいじゃん、善悪! 鍛えてもらいなさいよ! こないだツミコ叔母さんとリョウコに聞いたんだけど、お婆ちゃんって占領下の時代に世界中からお弟子志願の聖女や聖戦士が押し寄せてきた伝説の人なんだってよぉ! 頑張って強くなってくれればアタシも嬉しい事この上ないわよぉぅ!」
コユキはノリノリだった、彼女の嬉しい発言が余程効果的に働いたのか、善悪は頭をしっかりと下げてトシ子に向かって答えるのである。
「師匠、不束者(ふつつかもの)ではございますが、宜しくお願い致します、で、ござる! お、お婆ちゃん」 ぽっ!
トシ子も満足したのか、鷹揚(おうよう)に頷くと今度はコユキに向かって指示をするのであった。
「コユキ、よしおが頑張ってる間、アンタにも同様の努力をして貰おうかね」
コユキが脊髄反射(せきずいはんしゃ)の様に答えた。
「へ? アタシ? んまぁ良いけど、何をすれば良いの? もうアタシ結構強いわよ?」
トシ子は呆れ気味に言う。
「んな事知っとるわい、真なる神聖銀保持者だからのぅ、だから、お前にやってもらう事は別件じゃわい、ずばり! 聖遺物、『アーティファクト』探しじゃ!」
「あーてはくと?」
もう、ちゃんと聞けよ!
「アーティファクトっ! 詳しい話は善悪から聞くがええ、ほれ善悪、よしお! 光影の父、昼夜が使っていた吉備津彦命(キビツヒコノミコト)の聖遺物、まだ残って居る筈じゃな? アレを見せてコユキに説明して置くのじゃ、分かったな!」
善悪が答えて言う。
「はい、師匠! 蔵の中にあったと思うのでござる! して、師匠は何処(いずこ)に? 一緒に説明してくれないのでござるか?」
トシ子は自信満々で宣言するのであった。
「アタイは旦那様、マイダーリン、アスタと共に一旦茶糖の家に帰る、再婚を認めさせる為にな! 万が一反対されたときはここに戻ってくるつもりじゃ、戦力になるツミコ、リョウコ、リエも一緒になぁ、まさか、否は無いであろうな?」
顔を至近距離で覗き込まれた善悪は秒で答えた。
「有る訳ないでござるよ、いつでもお待ちしているでござる! ほら、お寺は来る者拒まず、何ならお骨になってからでも良いのでござ…… いえ、師匠には是非元気で戻って来て欲しいでござる、僕ちん個人的にもお願いしたいような……」
途中でトシ子にキッ! と睨まれてトーンダウンし自分から請願してしまう蛇に睨まれた蛙状態の善悪であった、こりゃ面白い。
善悪の言葉を聞いて満足気に頷いたトシ子は、アスタロトを軽トラの助手席に乗せると、ウキウキ気分で茶糖家に帰って行ったのである、今夜はビート・イッ、違った大騒ぎになる事だろう。
こうして、幸福寺はいつのまにか、渡る世間は悪魔とおっかない元聖女、聖女候補ばかり的な、ハラハラドキドキ大姑、姑、小姑の溢れる、ハートウォームな空間に変異していくのであった、良かった、良かった? か?