テラーノベル
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涼ちゃんが黙り込んでいると、
椅子の音がして、高野が近づいてきた。
「ちょっと貸して」
そう言って、涼ちゃんのおでこに手を当てる。
「……うわ」
思わず声が出る。
「熱いな」
その横から綾華も来た。
「どれ」
同じようにおでこに手を当てる。
「ほんとだ、熱い」
涼ちゃんは少し困った顔で笑う。
「いやでも、大丈夫だよ」
そう言うけど、声が少し弱い。
元貴がすぐ言う。
「大丈夫じゃないって」
綾華も頷く。
「うん、もう帰って休みなよ」
高野も続く。
「今日はいいから」
「ちゃんと寝ろ」
三人に囲まれる形になって、
涼ちゃんは少し戸惑う。
キーボードの鍵盤を見て、
それから三人の顔を見た。
まだ迷っている。
元貴が少し強めに言う。
「帰れ」
「これは命令」
その言い方に、綾華が少し笑う。
高野も頷く。
涼ちゃんは少しだけ黙って、
それから小さく息をついた。
「……わかった」
ゆっくり立ち上がる。
「ごめん」
そう言いながら、荷物をまとめ始めた。
バッグに楽譜を入れて、
キーボードの電源を落として、
静かに準備する。
帰る前に、少し振り向いた。
「ごめんね」
軽くそう言って、
スタジオを出ていった。
ドアが閉まる音。
スタジオの中が、少し静かになる。
元貴は小さく息をつく。
「無理すんなよなぁ…」
綾華も言う。
「昨日あんな雨だったしね」
高野は腕を組んで頷く。
その会話を、
若井は少し離れた場所で聞いていた。
ギターを持ったまま、
さっき涼ちゃんが座っていた椅子を見る。
ふと、昨日のことを思い出す。
大雨の中。
弦を買いに行った涼ちゃん。
びしょ濡れで戻ってきた姿。
(……あの時)
胸の奥が少し重くなる。
(俺が我儘言わなきゃよかった)
あの時、
「涼ちゃんやれば?」なんて言わなければ。
そう思った瞬間、
胸の奥に 罪悪感 が広がる。
若井はギターの弦を軽く触る。
昨日、涼ちゃんが買ってきた弦。
(……あいつ)
少しだけ俯く。
誰にも聞こえないくらい小さく、
心の中で思った。
(無理して来たんだろ)
それなのに。
自分はずっと、
冷たい態度を取っていた。
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