テラーノベル
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バルカは諸将を前に、笑みを浮かべながら次の作戦を語った。
「グラン人は間抜けだ。」
「名誉のためなら、平気で味方の足を引っ張る。」
「何度負けても、その悪癖だけは治らねえ。」
マゴが眉をひそめる。
「と、言いますと?」
「捕虜から面白い話を聞いた。」
「今度の総司令は、副官と犬猿の仲らしい。」
バルカは肩をすくめた。
「敵を討つのに、俺たちが苦労する必要はない。」
「邪魔な将は、敵自身の手で潰してもらおう。」
その言葉に、諸将は不敵な笑みを浮かべた。
バルカだけは静かに地図へ目を落とす。
(あとは、あの男が名誉を優先するか──それだけだ。)
敵の総司令は、補給隊や徴発隊ばかりを狙い、本隊との決戦を避け続けていた。
そんな慎重さが、バルカには鬱陶しくてならなかった。
「あれほど大口を叩いておきながら、バルカを取り逃がしただと!」
元老院はファービーを王都へ呼び戻した。
名目は戦勝祈願の儀式への出席。
だが、それが召喚が目的であることは誰の目にも明らかだった。
出発を前に、ファービーはミルキウスへ軍を託す。。
「絶対に戦ってはならん。」
「補給路を守り、奴を疲弊させろ。」
「私が戻るまで、一兵たりとも無駄に失うな。」
「はっ。」
ミルキウスは恭しく頭を下げた。
だが、その胸中は違っていた。
(あんな臆病な戦など、いつまで続けるつもりだ。)
(この私が、バルカを討ち取ってみせる。)
ファービーの命令を、守る気など初めからなかった。
ミルキウスが斥候の報告を受ける。
バルカ軍は略奪を続けながら、周辺の村々へ拠点を築き始めていた。
「図々しい鼠どもめ。」
「徴発隊が各地へ出ております。」
副官が地図を指した。
「叩きますか。」
ミルキウスは首を横へ振る。
「徴発隊など放っておけ。」
「本営は手薄になっている。」
「そこを叩けば兵の士気も上がる。王都への良い報告にもなる。」
「はっ。」
グラン軍は出撃した。
不意を突かれたバルカ軍は損害を受ける。
とはいえ、失った兵はわずかだった。
しかしミルキウスは、その小さな勝利を大勝であるかのように王都へ報告した。
久々の勝利の報は王都を駆け巡った。
「ついにバルカを押し返した!」
「やはり攻めれば勝てるではないか!」
市民は歓喜し、ミルキウスの人気はうなぎ登りとなる。
一方――。
報告書へ目を通したファービーは、顔色を変えた。
「……愚か者。」
普段は感情を表に出さない男が、机を叩いた。
「独裁官の権限をもって、ミルキウスを罷免する。」
「直ちに軍の指揮権を取り上げろ。」
側近たちは息をのんだ。
「閣下、本気ですか。」
「命令違反だ。」
「次は必ず、もっと大きな餌をぶら下げてくる。」
「奴は、我らを誘っている。」
その命令は瞬く間に王都へ伝わり、市民は騒然となった。
ファービーの怒りは凄まじかった。
その剣幕に、市民は震え上がる。
「命令違反は許さん。」
「独裁官の権限をもって、ミルキウスを罷免する。」
だが、その処分を横暴だと非難する者がいた。
護民官キティリウスである。
「これは独裁官による権力の乱用だ!」
「勝利した将を処罰するなど、市民への裏切りではないか!」
ミルキウスの親族でもあるキティリウスは、元老院へ強く訴えた。
やがて、その訴えは議場を動かしていく。
ライナーは元老院からの奏上へ目を通すと、
苦々しく机の上へ放り投げた。
「……どうされます。」
マエクスが静かに尋ねる。
「飲むしかあるまい。」
ライナーは深く息をついた。
「国内軍は、元老院の支持なくして成り立たぬ。」
「しかし、それでは……。」
「分かっている。」
ライナーは拳を握り締める。
「まさか元老院が、ここまで阿呆とは思わなかった。」
「これでは、すべてバルカの思い通りではないか。」
元老院は戦功を理由に、ミルキウスを独裁官へ格上げするよう奏上した。
さらに、ファービーと軍団を二分し、
それぞれへ同数の兵を与えるという前代未聞の案まで付け加えられていた。
「わーっはっはっは!」
報告を聞いたバルカは腹を抱えて笑った。
「やっぱり馬鹿だ。」
マゴも苦笑する。
「兄者に『わざと負けろ』と言われたときは、
何を考えているのか分からなかった。」
「まさか、ここまでうまくいくとはな。」
バルカは肩をすくめた。
「本当は、あの阿呆に全軍を預けてくれりゃ最高だったんだが。」
「まあ、半分でも十分だ。」
地図へ指を伸ばす。
「戦場は――ここだ。」
バルカの指が、ゲロニアを静かに叩いた。
ライナーは内密にファービーのもとを訪れた。
「このようなところへ、王自ら……。」
「苦労をかけるね。」
ファービーは力なく笑った。
「もう、ほとほと嫌になりました。」
「そう言わないでくれ。」
「全体の戦況はどうですか。」
「スパルーニャではスピリタス軍が勝利を収めた。
パーカーブラザーズはやってくれたらしい。」
「海では封鎖も順調。」
「放っておけば、こちらが勝つ戦です。」
そう言って、ファービーは深く息を吐いた。
「それなのに、自分たちで勝機を壊そうとしている。」
しばらく沈黙が流れる。
やがてファービーは、ぽつりと尋ねた。
「ところで……。」
「どうして王は、それほど平然としておられるのですか。」
ライナーは少し考え、穏やかに笑った。
「みんなを信じているからかな。」
ライナーは少し照れくさそうに笑った。
「もちろん、君のことも。」
ファービーは言葉を失う。
やがて顎へ手を添え、小さく笑った。
「……それは、嬉しいですね。」
コメント
1件
うわー、今度はミルキウスの暴走とバルカの策がぴったり噛み合っちゃったね……。ファービーが正論で動いてるのに、まわりが邪魔するパターン、すごくもどかしい。でも、その「人間の愚かさ」がバルカの思惑通りに転がっていく展開がめちゃくちゃ面白い。そしてライナー王の「みんなを信じてる」って台詞、あれはグッときた……。重たい空気の中でのあの優しさ、泣ける。次が気になる!
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