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そうして、みんなを乗せたトラックは1時間ほど走った後で、ちゃんと舗装された道を進んで街に入った。銀行跡の駐車場にわたしたちは降ろされて、ひっそりと静まり返った光景に、石田さんもお母さまも、そしてわたしも驚いてしまった。
遠くでは犬の鳴き声が聞こえている。
時折通り過ぎる人々は、きっと現地人なのだろう。着ている服装でわかるし、怖い目をしてわたしたちを見ている気がする。
そんな空気を悟った石田さんの提案で、わたしたちはトラックに戻り、数分走っ高粱畑が広がる農家で休憩をすることになった。
石田さんから、おにぎりが配られると、わっと歓声があがった。
「みなさん、ここの人は、開拓団を快く招いて下さった私の友人です。色々協力してくれないか、今からお話ししてきますから、どうぞ心配しないで休んでいてください、すぐに戻ります」
そう言い残して、石田さんは去って行った。
この時に、わたしは初めて知った。
石田さんは足が不自由なのだ。
歩き方がぴょこぴょこしているから、間違いないだろうけど、誰にも言わないようにした。
みんなは、農具庫の石壁に寄りかかったり、トラックの荷台に座ったままだったり、井戸の中を覗き込んだりと、想い想いに時間を過ごしていた。
わたしとお母さまは、生い茂る高粱を眺めながら、おにぎりをゆっくりと味わった。
富士子さんも後からついてきて、英語の歌を静かに口ずさんでいた。