「……な、優奈! 大丈夫か? まだ、身体がだるいんじゃないのか?」
「え?」
どうやらボーッとしていたらしい。
気がつくと、心配そうに雅人が顔を覗き込んでいた。
……その顔の美しいこと。
全てのパーツの造りが美しいと思うが際立っているのは凛々しく野生的な力強さを持つ瞳だ。思わず吸い込まれそうになる自分の頭をリアルに殴る。
「ゆ、優奈……頭を、なんてことしてるんだ」
雅人が悲壮な声を出した。
「ごめんなさい、ちょっと立ったまま寝てたみたいです」
「やっぱりもう少しうちにいないか? それが嫌なら入院先を手配……」
「大袈裟です、いらないです」
言い切って雅人の提案を黙らせた。
何メートルあるんだよ、と突っ込みたくなるエントランスのガラス張りの自動ドア。しかしそちらには向かわず、雅人は手招きをする。
「優奈、車はこっちだ」
「車……」
「歩いて帰らせるわけがないだろう、ほら、早くおいで」
ニコニコと笑みを作って優奈を呼ぶ。
わかる、雅人が喜んでいるのが手に取るようにわかる。間違いなく優奈との再会に喜んでくれている。
だからこそ、優奈は喜べない。
「……子供扱いしないでください」
ツンと声を出して馬鹿みたいに肩肘張って優奈は雅人の横に並んだ。プライドの塊と化している。
乗り込んだ黒い車は、興味のない優奈でもわかる高級車のエンブレムを輝かせている。
雅人が助手席のドアを開けて優奈の背中を支えて乗り込ませた。
なんと座り心地のいい……クッション具合。
運転席と助手席の間を仕切る手すりは高級な雰囲気しか感じられないから、本来の用途として優奈には使いこなせそうになかった。
とのかく自分が乗っていることに違和感しかない。
「大体の住所を教えてくれるか?」
「……住所ですか」
正直、雅人の生活水準に圧倒されている。
こんな煌びやかな人に、優奈の住むさびれたアパートへと向かわせるのか。
「優奈?」
しかしここで拒否をしたところで恐らく何も進まない。優奈は観念して雅人に大まかな住所を伝えたのだった。