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「瑞稀!」
「凛華じゃん、おはよ」
「おはよう」
瑞稀を好きだと意識し始めてから世界が輝いて見える。
何もかも綺麗だと思えて仕方がない。
何をするにしても彼の顔が浮かび彼ならと考え私の生活の中心が瑞稀になっているようですごく愛おしくて手離したくない、そんな存在になってしまった。
「凛華はさ、好きな人に対してどうやって想いを伝える?」
「え?私?」
「んー、素直に好きとだけ言いたいかな」
「そっか、素直にね」
今、誰を思い浮かべているのかすごく気になってしょうがない。
胸の奥にもやがかかって苦しくなる。
素直に何も言えない私が何を言っているのか分からなくなった。
俺にとって凛華とは何なのか、よく分からないと思った。
誰よりも俺を理解してくれていると思うからこそ凛華に何を期待しているんだとおかしく思う。
凛華にとって俺なんてただの友人に過ぎないのに。
凛華を素直に応援することなんて出来ない。
気持ちをまっすぐ伝えられたらと思うけれどそんなことも出来ない。
「酒井、どうかした?」
「水野おはよう。別になんでもない」
「嘘つきー、瑠那様に嘘つけると思ったら大間違いよ!」
「なんだよそのキャラ」
「笑えるならそこまで落ち込んでないのね、良かった」
水野になら言ってもいいかもしれないと淡い期待を持った。
「俺、凛華が好きなんだ」
「うん」
「でも凛華は、知ってるだろうけど瑞稀が好きだろ?」
「ずっと悩んでてさ」
水野の目を見てはっきりと言えなかった。
諦めろと言われそうで怖いから。
けれど、水野には知られてもいいと思ってしまったから。
俺にはよく分からない感情しか無いのだろうか。
「知ってたよ。酒井が凛華のこと好きなの」
「え?」
「バレバレだから!」
「凛華は気づいてないだろうけど酒井のこと私がいちばん見てるんだから知ってるに決まってるでしょ」
「それってどういう⋯」
一瞬でも何か違和感を感じてしまった。
水野が俺をいちばん見ているというのが理解できなかった。
「水野は古川が好きなんじゃ、」
「気付かなかった?中学からずっと酒井のことが好きだった。」
「高校入って酒井は凛華のこと好きなんだなって気づいてさ私じゃ無理だなーとか思って酒井のこと諦め中なの!」
何も知らなかったし気が付かなった。
水野が俺のことを好きだなんて1ミリも想像したことがなかったから。
「私が酒井のこと好きなんて誰も知らないから当たり前だよ。でも、これからも同じように接して欲しい。 」
「私はちゃんと酒井のこと応援してるから」
「うん、ありがとう」
3年前、まだ私たちが中学2年生だったあの頃。
私はいじめられていた。
「男たらしの瑠那ちゃんは次に誰を狙ってるのかな?」
「⋯」
「何とか言えよ!」
旧校舎の女子トイレ。
そこがいつも苦しい思いをする場所だった。
水をかけられ罵声を浴びせられる。
当時それほど強くもない私は抵抗することできなかった。
ただただ耐える毎日。
死んだ方がマシだと思える程弱っていた。
「水野、それどうしたんだよ。なんでそんな濡れてんの?」
その時偶然部活終わりの酒井に出くわした。
「酒井、」
大切に使っている野球の鞄から一枚のタオルを取り出し私の体を拭いてくれる。
「何があったか説明して欲しい」
私はこれまでのことを全て酒井に話した。
真剣な顔で私の話を聞く彼をヒーローだと思ってしまった。
「俺が何とかするから」
私たちが座っていた河川敷からはキラキラと輝いた水が反射をしていてただ彼だけが輝いていた。
その次の日酒井は私をいじめてる人たちを呼び出し水をかけた。
女子生徒の悲鳴と怒りが鼓膜を突き破るほどに響き渡る。
先生が来て酒井を叱った。
すごく怒られている酒井を見ていたたまれなくなり私は先生の元へ行き事の経緯を説明した。
酒井はどんなことがあろうとも今後こんなことは辞めるよう言われ私をいじめていた女子生徒は卒業までずっと冷たい目で見られていた。
「ほらな、俺がなんとかするって言っただろ」
「何とかって、私が言わなかったら酒井怒られてただけだったよ」
夕暮れ時、コンビニへ行きお礼と称して肉まんを彼に奢った。
素直にありがとうとお礼の言えない私でも彼は不機嫌な態度ひとつ見せず笑って話してくれる。
何よりもかっこいいと思い心がいっぱいで今にも泣き出しそうな程に嬉しかった。
「でも良かった、水野この世の終わりみたいな顔してたから。」
昨日のように河川敷に二人で並んで座りただひたすらに夏の匂いが恋しかった。
「はい、これ。」
彼は肉まんを半分に割り、少し大きい方を私にくれた。
「ありがとう、酒井。全部、全部ありがとう。」
「酒井は私のヒーローだね」
無意識に涙が溢れていた。
そんな私を見て慌てる彼が何よりも愛おしくて私は彼が好きなのだと自覚してしまった。
「おい、泣くなよ。大丈夫だから」
あの時の記憶は今でも私の宝物だし、彼は私のたった一人のヒーローだとすごく感謝している。