「……あのさ、俺、もう隠すの疲れたかも」
ふみやと手を繋いで帰っていく君の背中を見送ったあと。
誰もいない帰り道の公園で、俺は携帯に録音を始めた。
君には、届かないってわかってても。
「ずっと前から、気づいてたんだ。君がふみやのことを好きだってこと」
ふみやが照れた声で話す君との出来事。
君が嬉しそうにふみやの話をする顔。
ふみやがどれだけ大事に君を思ってるかも、痛いほど伝わってた。
「でもさ、俺、気づいたら……君のこと、目で追ってたんだ」
ふみやのいない時間に、
君が俺に話しかけてくれるだけで嬉しくて。
笑ってくれると、鼓動がうるさくなって。
それなのに、俺は”親友の彼女に恋した最低な奴”でしかないんだよな。
「こんな好きなのに、言えないって……めっちゃ苦しいんだね」
涙が落ちる音が、録音に入ってたらどうしよう。
でも止まらない。止められない。
「だから今日だけ、君のこと、好きって言わせて」
「好きだよ。ずっと、前から」
録音ボタンを止めて、再生はしなかった。
誰かに聞かせるためじゃない。
ただ、俺の気持ちに、終わりをあげたかっただけなんだ。
──明日からまた、ふみやの隣で笑う君を、ちゃんと見送れるように。
気づいたら、目で追ってた。
ふみやの隣で笑ってる君を。
何も知らずに、ふみやを見つめてる君を。
そして、ふみやのことが好きで仕方ない君を。
「……そんなの、俺の入る余地なんてないのにね」
何度も言い聞かせた。
何度も、諦めようとした。
それでも、どうしても視界に入ってきてしまう。
ふとした瞬間に君の笑顔が焼きついて、抜けなくなる。
最初は、勘違いだったと思いたかった。
ただの仲の良い友達の一人で、たまたま気になっただけだって。
でも、違った。
ふみやと君が手をつないでいるのを見た日、
胸の奥で、音がした。
──ボロッて、何かが崩れ落ちたような音だった。
その日から、俺は変わった。
君のLINE、開いては閉じて。
打った「元気?」の一言すら、結局送れなかった。
目が合いそうになると、そっぽを向いた。
話しかけられても、つい素っ気なくしてしまう。
近づきたくて仕方ないのに、距離を置くことしかできなかった。
だって──
知ってほしくなかったんだ。
この気持ちに、君が気づいてしまったら、
きっと全部、壊れてしまうから。
それでも君は、優しかった。
「ねぇ、最近避けてるでしょ」
そんなふうに笑ってみせるから、余計に苦しかった。
「……そんなことないよ」って、
ちゃんと笑えていたかわからない声で返すしかなかった。
ほんとは、今すぐこの気持ちを叫びたかった。
「好きだよ」って言いたかった。
誰よりも、誰よりも君が好きなんだって──
でも、言えない。
だって俺は、ふみやの友達で
君にとっては、ただの“いい人”で
──“邪魔をしちゃいけない人”だから。
苦しいのに、笑わなきゃいけない。
涙が出そうなのに、何もなかったふりをしなきゃいけない。
“こんなに、好きなのに。”
ねえ、神様。
どうして俺、君に出会っちゃったんだろう。
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