テラーノベル
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重い、抗いがたい眠気が一気に押し寄せ、私の意識は急速に暗転していく。
……ああ、この男、案外暖かいじゃない。
彼の胸板の硬さと、石鹸のような微かな清潔な匂いを鼻先に感じながら。
私はそのまま深く、果てしない心地よい眠りの淵へと沈んでいった。
◆◇◆◇
それから数日後───
私たちは再びスラムへ足を踏み入れていた。目的は「妹」と名乗る少女・コロナリータへの聞き込み。
埃っぽく饐えた空気の中を歩きながら、ダイキリが小声で呟く。
「なんか……すごい見られてません?」
確かに、周囲の薄汚れた住人たちが、ちらちらとこちらを窺っている。
好奇心、警戒心、嫉妬……さまざまな色が入り混じる視線。
そんな中───
「こんにちはー! お待ちしてました!」
以前と同じ軒先で待ち構えていたコロナリータが、元気よく手を振ってきた。
周囲のザワつきを背負いながら、私たちは簡素な部屋へと案内された。
「さぁ、座ってください。今、お茶をお持ちしますね」
彼女が楽しげに言って席を立ったとき。
私が「今よ」と呟いたのを合図に3人で戸棚や本棚を物色し始める。
本棚を調べていると、奥まった場所に一枚の古びた紙切れを見つけた。
手に取ると、インクがかすれているが、確かに文字が書かれている。
「【Juguete de reutilización creativa】『創造的再利用玩具』……?」
スペイン語らしい単語の下に、さらにいくつかの名前が羅列されていた。
「001-GIMLET」
「008-DAIQUIRI」
その下には【Remade Toy】という文字。
「007-CORONARITA」
「005-BRONX」
「010-REDEYE」
最後に一文。
“Vous n’êtes que les jouets d’un verre où vous devez vous noyer, car ce monde est ma recette.”
(あなたたちは溺れるべきグラスの中の玩具に過ぎない。なぜならこの世界は私のレシピなのだから)
……何、これ。
私が眉をひそめた瞬間だった。
「お待たせしました〜!」
明るい声と共に扉がノックされる音。
コロナリータだ。
「とりあえずこれは私が持っておきます。あとでまた確認しましょう」
隣でダイキリと一緒に書類を漁っていたアルベルトが、私の手から素早くその紙切れを抜き取り
慣れた手つきで自分のジャケットの内ポケットへ滑り込ませた。
その動きは驚くほど滑らかで、全く音を立てない。
「どうぞどうぞ! 外は暑かったでしょう?」
彼女の朗らかな声が近づいてくる。
私たちは慌てて何もしていなかったかのように席に戻り、平静を装う。
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