テラーノベル
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「……白梅。あなた本当に歌が詠めないのね」
はあと、桂は大げさに息を吐く。
「……申し訳ありません」
白梅は小さくなった。
呼ばれている桂の部屋には、重苦しい空技が流れている。少なくとも、白梅はそう感じていた。
「やはり私の代筆になるのかしら……。できるなら手直し程度で済ませたかったのだけど。これはあんまりだわ」
前では、白梅が一晩捻った歌を見ながら、桂が困り果てていた。
恋の始まりは歌のやり取りから。できるだけ他人の手はいれたくないと桂は思っていたのだ。
ところが手にする白梅の歌は、酷い。酷すぎる。歌の体にもなっていない。
これでは、話にならない。相手も冷めるだろう。
向こうはその気。妹分の幸せを、みすみす手放すのもいかがなものか。叶えてやりたいものだと桂は思う。
「仕方ないわ。業平様のおっしゃった通り、代筆をいたしましょう」
「いえ、ですが桂様……。この様なお話は……」
「そうね、いきなりですものね。でも、お話を伺う限り、誠実そうな方じゃない?お前はまだ若いから分からないと思うけれど、添い遂げる男はやはり誠実でなければ。業平様をごらんなさいな。あちらこちらにちょっかいを出して……」
もう、と、桂は機嫌が悪くなる。
「……申し訳ありません」
何がなんだか分からない白梅は、とりあえず謝った。頭を下げていたら何とかなる。それこそ桂に教わった処世術でもあった。
「あら、気を使わせてしまったわね。なんというか、こちらの事情まで出してしまってごめんなさいね。とにかく、上手くいくように、私も頑張りますからね」
「……で、でも桂様。私にはそもそも、もったいないお話で……」
主人直々の縁談話。下級女房が受けるにはしてはなかなか重い話だった。
「ああ、気にすることはないわ。業平様は、恋に長けていますからね。どうしても、他人の色事にも首を突っ込みたくなるだけなのよ」
ただね、他の女房たちには秘密にしなさい。やっかみを受けるからと、桂は意味深なことを言った。
たちまち白梅は、自分が置かれている立場に押されてしまう。
先輩たちを差し置いて、ということだと気がついたからだ。しかも、業平からの口利きだ。
確かに、異例中の異例の話。言われたように、かなりのやっかみがくるのは容易に想像できた。
「桂様……」
弱々しく桂にすがる白梅の姿に、桂は優しく微笑んだ。
「大丈夫よ。なるようになるわ」
「……そ、そうでしょうか」
「まあ、始めは慣れないでしょうが、そのうちお相手の人柄もわかりますよ。もちろん、歌のやりとりが続いたらの話ですけどね。だからこそ、重大なお役目だわね」
#完全一次創作
たかはし もけ
717
はるか
5
生方詩
25,680
桂は、顔を引き締めた。
「私に任せてもらえるかしら?」
そこまで言われては、白梅も覚悟を決めるしかない。
「よ、よろしくお願いします!」
言って、白梅は頭を下げたのだった。
コメント
1件
第4話、拝読しました🌷 白梅の不器用さと、それを見守る桂の優しい厳しさがじんわり沁みました。歌が詠めないからこそ、桂の代筆という形で恋が動き出す——その“すれ違い”に、逆にこの先が楽しみになりました。業平の横顔もちらりと見えるところが、平安の空気を感じさせてくれますね。 井川奎さんの、登場人物の距離感の描き方がとても好きです。次話も楽しみにしています。