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「ということで、話はついた」
出仕から戻ったとたん、業平は桂と顔を突き合わせている。
「今宵、あやつは白梅に歌を贈るだろうよ」
「まあ、なんだか急なお話で……」
相手のやる気に桂も驚いている。
「何事も思いついたときが吉日だからな」
「そんなものですか?」
「そんなものさ」
業平は、疲れたと言いながら横になった。
「屋敷の見取り図も描いてやった。白梅以外の女房に歌が届いてはいけないから」
「まあ!」
いつになく積極的な業平に、桂は開いた口が塞がらない。
桂はこれは、自分もしっかりしないとと、代筆の決意を新たにするのだった。
「それにしても、随分とお疲れで……」
うたた寝しそうな業平の姿に桂は不思議に思う。
「まあな、今日は歌を幾つか詠んだからね。意外と疲れるものだ」
「歌を?宮中で?」
急な歌会の宴でもあったか?
「あっ、いやいやなんでもない。さる姫君への義理を少し……」
つまり、ほかの女へまた、なびいたと言うことで。
「まあ、それはお疲れのこと……」
桂は業平の耳を引っ張った。
「いてて、痛いぞ桂!」
「それは、申し訳ございません」
不機嫌な桂に業平は苦笑いつつ、宮中でのことを思い出していた。
閉ざしの姫君へ向けてと公言し、業平は、こっそり成明のために歌を詠んだ。
案の定、周囲は耳ざといなどと軽口を叩き、業平の行いに見向きもしない。
幾つか歌を詠み、成明に決めさせ、したためさせた。
筆跡まで業平のものだと桂に些細がバレてしまう。
ところが、成明は幾度としくじり、したため直すことになる。
そして、疲れ果て屋敷に戻ったという訳で……。
しかし、戻っても、誰にも本当の事は明かせない。桂にバレたら、馬鹿らしいと、返歌をよこさない可能性もある。
業平は、内心ヒヤヒヤしながら、成明が歌を忍ばせるのを待った。
そうこうするうち──。
「業平様……」
桂の声と共に体が揺さぶられる。
どうやら、いつの間にか眠っていたようだ。
「夜も更けてまいりました。他の女房に見つかってはなりません。参りましょう」
「……どこへだ?桂」
「そろそろ、歌が届く頃合いかと……」
確かに部屋には明かりが灯り、すっかり夜の装いに変わっていた。しかし。そろそろとは?
桂は、不思議そうにする業平に笑みを浮かべ、
「女の勘ですわ」
と言ってのける。
こうして、二人は白梅への歌が届けられるであろう下級女房たちの部屋に面した縁側へ向かった。
成明の従者が、歌がしたためられた文を持ってくると信じて……。
井川奎
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コメント
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第5話、読み終わりました!業平が成明のためにこっそり歌を代筆してるのに、桂にはバレないようにヒヤヒヤしてるのが面白いですね。桂の「女の勘ですわ」という台詞がいい味出してて、さてこれからどうなるのか。こっそり縁側で待つ二人の様子とか、平安時代の恋愛事情を感じさせる空気感が好きです。次も楽しみにしてます!