テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第二十三章 なくさないカタチ
微睡のなか、二人の足が絡まり合う。
カチカチと鳴る秒針が、二人の時間を割いていく。
天井を見上げながら、翔太は指で空中にゆるい円を描いていた。さっきまで笑っていたくせに、急に静かになる。
「この世から消えちゃうってさ」
振り向きもせず、思いついたみたいに続ける。
「なんか、ふわってなるのかな」
声は軽い。
雲の話でもしているみたいだった。
「何それ」
笑って返そうとしたのに、言葉が少しだけ遅れた。
翔太はくるりとこちらを向く。
「ほら、ゲームのキャラみたいにさ。
すーって薄くなって、はい消えましたー、みたいな」
自分で言って、自分で小さく笑う。
その瞬間、胸の奥が、わずかにざわついた。
理由は分からない。ただ、体が先に動いていた。
腕を伸ばして、何でもないみたいな顔で翔太を引き寄せる。
「寒いなら服着なさい」
「えー、あったかいもん」
翔太は素直に胸に額を押しつけてくる。
さっきの言葉なんて、もう忘れたみたいに。
抱きしめた体は、軽い。
軽いのに、ちゃんとそこにある。
「俺が消えたら、気づく?」
くぐもった声が胸元から聞こえる。
「気づくに決まってる」
即答だった。考えるより先に出た。
「そっか」
それで満足したみたいに、翔太は小さく笑う。
翔太はふと自分の手を持ち上げた。
「最近さ、これちょっと緩いんだよね」
指輪をくるくる回して見せる。
「落としたらやだなって思って」
「痩せた?」
「んー、どうだろう?」
指輪が緩むほど痩せたの?
どうしてお腹空かないの?
突然現れる理由は?どうやって会いに来てる?
――聞きたいことは、いくつもあった。
けれど腕の中の体温が、先に答えを求めている気がして、口を閉じた。
一瞬、言葉を選ぶ間があった。
――否定すると、壊れてしまいそうで。
「じゃあネックレスにする?」
「おそろい?」
「うん」
翔太は一瞬だけ目を丸くして、それから嬉しそうに笑った。
「いいね、それ。なくさない形」
“なくさない”
その言葉に引っかかりかけて、何も言わなかった。
「ネックレス、明日一緒に見に行こう」
そう言うと、胸元で小さく息がほどけた。
指輪の代わりでも、約束の代わりでもいい。
“なくさない形”を、ふたりで選べばいい。
「……うん」
抱き寄せると、翔太は少しだけ力を預けてきた。
消えるとか、消えないとか――
今はただ、ここに重みがあることを覚えていればいい。
「じゃあひと足先にお引越し」
そう言って俺のネックレスに指輪を通すと、キーンと小さくなった二人の指輪が存在を主張するようだった。
「勝手に?」
「仮住まい」
笑いながら、 胸に額をこすりつけてくる。
「寒い」
「服着なさい」
「やだ」
仕方なく抱き寄せると、翔太は満足そうに息をついた。
「消えないでよ」
「誰が」
「蓮」
「消えないよ、……翔太もね」
「蓮が覚えてる限り……俺って不死身だから……夢にだって現れるよ」
「怖っ」
本当に、それだけだった。
やがて翔太は欠伸をして、
俺の腕を枕みたいに使いながら目を閉じる。
さっきまでの“ふわって消える”話なんて、
もうどこにもない。
「明日、何色にする?」
「シンプルなの。服に引っかからないやつ」
「了解」
そうしているうちに、呼吸がゆっくり揃っていった。
ただの夜だった。明日が来る前の、
なんでもない夜。
愛し合う形は、それぞれ。
カチカチと鳴る秒針が、二人の時間を削っていく。
カウントダウンを告げるかのように、聞こえてくる時計の音に、翔太は耳を塞いだ。
「大丈夫?」
「だいじょばない……」
寂しさを紛らわすように、伸びてきた白い腕は、小刻みに震えていて、俺の頰を撫でた手は、冷たかった。
「お願いもう一回だけ……」
呼吸が揃っていく静けさの中で、 カーテンの隙間から細い光が差し込んでいた。
まだ夜の色を残したままの、薄い朝の気配。
明日になれば、また同じ朝を迎える。
ネックレスを見に行って空港まで一緒に歩いて――
そんな当たり前が、もうそこまで来ているみたいに、 朝は静かに近づいていた。
もう一度、離れないように重なった。
これで少しでも翔太が安心できるのなら――
翔太はずるずると下へと降りて、股の間にちょこんと座って熱茎を口に含んだ。
小さな口で一生懸命に――
「蓮……イっちゃヤダ……」
「まだまだ大丈夫だけど?」
「そっちじゃないバカ」
〝行っちゃヤダ〟
分かってる……それに応えてあげられないだけ。
「ふふっホント変態……バカ蓮」
君の笑う顔がみたい。
ただそれだけ。
苦しそうに喉仏を上下させ、熱茎を愛す翔太を引き剥がそうとしても、駄々を捏ねる子供のように引き下がらなかった。
「やだぁ……最後までする」
結局、絶頂に達せず目を伏せて悲しそうな声で〝ごめんなさい〟と言った翔太を抱きしめる。
「誰も悪くないだろ?さっきイったばかりだ……」
「もうおしまい?」
「翔太が欲しい……挿入ってもいい?」
細い二本の腕がまっすぐと俺に向かって伸びてくる。満面の笑顔で〝きて……変態レン〟と言うと〝どっちが変態だか…〟と悪態を付きながら再び愛し合った。
これが俺達らしいだなんて言い訳をしながら――
安心したのか、静かに目を瞑ると 翔太は眠ったまま、躊躇いがちに、 指先だけで俺のシャツの裾を掴んでいる。
ほどけない程度の、弱い力。
「……ちゃんと掴まっててね」
小さく呟くと、返事の代わりみたいに、指先がほんの少しだけ動いた。翔太の熱を探して、深く背中に回した腕に力を込めた。
何があっても見失わないように。
胸に当たる翔太の温かい吐息に、
俺もまた微睡の中へ沈んでいった。
コメント
8件
寝てはだめぇ!!!😭