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舌に絡みつく苦みと甘みが、喉を通る瞬間だけ浄化されたような錯覚を与えた。
一方、私の隣ではアルベルトがジンライムをゆっくりと口にする。
その喉仏が上下する様はどこか官能的で、血塗れた地下での作業風景が脳裏を過る。
彼の服からは微かに硝煙と死の匂いが漂っていたが、それを覆い隠すほどのフレグランスが纏われていた。
「完璧な仕事を終えた後の一杯は格別ね。さっきまでの激しい作業が嘘みたい」
私は空になったグラスを回しながら言った。アルベルトは小さく肩をすくめて笑う。
「まったくです。貴方が最後の掃除を手早く済ませてくれたおかげで、こんなにも穏やかな時間が持てますよ」
店内にはピアノジャズが流れている。
旋律は静かで穏やかだが、私には銃弾が天井を貫く音のように聞こえる。
カウンターに映る二つの影は酷く歪んでいて、血が乾いたペンキのように滲んで見える気がした。
突然、彼がテーブルの上で指を組み合わせた。
その小指に嵌められた銀色のリングが鈍く光る。
「ところでエカテリーナ。貴方はそもそも『王太子から断罪される』ことを避けるために私と手を組んだわけですが…本当にそれだけが目的でしょうか?」
唐突な質問に思わず瞬きをする。
視線を投げかけると、彼はいつものように柔和な笑みを浮かべていた。
「それは、どういう意味かしら」
「……率直に言いましょう。貴方は私の力を借りて、実父を始末したいと思っているのではありませんか?」
「……ふふ。どうしてそう思ったのか聞いてもいい?」
「契約と言えど行動を共にする相手ですから、一通り調べさせてもらったんですよ」
そこで一度区切ると、アルベルトはカクテルグラスを持ち上げて目の高さで揺らした。
無機質な声が、私の耳朶を打つ。
私は微かに眉を寄せたが、彼は構わずに続けた。
「ローゼンタール伯爵夫人の死。公式には病死とされていますが……真実は、貴方が夫人に頼まれグラスに注いだ『媚薬』による毒殺。そしてその媚薬を、あらかじめ猛毒にすり替えていたのは、他ならぬ伯爵自身だった」
心臓の鼓動が、一瞬だけ跳ねる。
誰にも、あろうことか、会って数週間のアルベルトにさえ話したことのない、私の核にある泥濘。
それを彼は、まるで明日の天気を確認するかのような淡々とした口調で暴いてみせた。
「母を殺したのは自分だと、貴方は今も信じ込まされている」
「……っ!」
「伯爵による、実の娘を『毒婦』へと仕立て上げるための、あまりにも用意周到な精神的去勢だ」
アルベルトの漆黒の瞳が、私の瞳の奥をじっと覗き込む。