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体育大会1日目。競技は学年こどに行われるので、生徒たちは各々指定された場所に足を運んでいる。それぞれの教室が施錠されていることを確認しつつ怪しい人影に目を光らせていると、此方に走ってくる足音が聞こえてきた。
「…遊宵先生?」
「はぁッ…はぁッ…はぁ……ごめん、遅れた」
「異常事態でしょうか?」
「いやー…女の子躱すのに手間取っちゃってさ」
「そうですか」
「あは。…そっちは?」
「職員室の先生方も出払っていらっしゃいますからね。未だ怪しい人物は見かけておりません」
「ふーん。じゃあ、成瀬ちゃんたちの教室の前で張り込むとするか」
「そうですね」
教室の前の廊下を音を立てずに歩いて行くと、目の前の遊宵先生が突然ピタリと立ち止まった。
「どうかなさいましー」
「しっ!…ほら、ロッカーの前」
指差す先には西田さんのロッカーの前で蹲る男がいた。そうか、あの男がーー
「僕が追い詰めるから、アイツが逃げ出したら捕まえて」
私が無言で頷くと、遊宵先生は人が変わったかのように冷徹な面持ちでその男に近付いて行き、背後から声をかけた。
「何やってんだ、アンタ」
男がビクッと反応し、その場から飛び退く。
「あなたは、非常勤の山上先生ですね」
「え」
「警察は呼んであります。それに、否認しても無駄ですよ。…調べは付いているので。あなたが一年前に西田さんに告白しフラれてからストーカーとなって彼女に付き纏っていること、とかね」
男は辟易ろいだが、直ぐに立ち上がり遊宵先生の横をすり抜けて私の方に向かって来る。私は男を逃すまいと両手を広げ、取り押さえるための構えをとったがー私の後ろから誰かが飛び込んできた。
「成瀬ちゃん!?」
私の横を勢いよく通り過ぎた成瀬さんはそのまま男に向かって行き、…なんと一本背負いで男を強かにその場に押さえつけた。
「ぐはッ」
床に身体を激しく打ち付けたその男は一瞬にして気を失った。
「わーお」
遊宵先生が感嘆したように声を漏らす。
「成瀬さん、流石です」
成瀬さんの余りの勇姿に思わず拍手していると、彼女はハッとしたように顔を上げきまり悪そうに笑った。
「あー……すみません」
「颯爽と現れて犯人倒しちゃうんだからビックリしたよ。どうしてここに?」
「二人が教室の方に歩いていくのが見えたので。…私だって、友達の仇くらい取りたくて」
「キュンとしてしまいました、成瀬さん」
「は?」
「カッコいいけど、もうこんな危ないことしちゃダメだよ?」
「ご迷惑をおかけしました…」
「なら、よし。後は先生たちに任せて成瀬ちゃんは戻りなね。折角の体育大会だし!」
「はい!犯人を見つけて下さりありがとうございましたっ」
成瀬さんはお辞儀して体育館の方に駆けて行った。その背中を見送ると、遊宵先生はぐったりと気絶している男を担ぐ。
「ほら、和住も手伝って」
「はい」
この男は比較的小柄だが成人男性を担ぐのはやはりある程度の力が必要だと、遊宵先生と一緒に男を持ち上げながら考える。
成瀬さんがこの男を投げた瞬間を思い出す。…私もいつか成瀬さんに一本背負いして頂けるだろうかと、密かに胸がときめいた。