テラーノベル
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付き合ってるアメ日のお話
◇政治的意図はございません
雨だ。
ツンと湿った匂いが鼻をさす。
「傘,持ってきて無いんですよね…」
時刻は5時。珍しく定時で上がれたというのに,外に出てみれば,次から次へと,とめどなく雨が降っているではないか。まだ三月だからと,油断していた。
さて,どうしよう。駅までの数キロは歩きだ。まさかびしょ濡れて帰ったら,あの心配性な恋人は黙っちゃいないだろう。
…仕方が無い,コンビニで傘でも買って帰ろう。日本は,書類やパソコンが詰まった鞄が濡れないよう,しっかりと抱き抱えてコンビニまで走り出した。
「やっと着いた…」
スーツに付いた水滴を振り払って入店する。雨で体が冷えたせいかもしれないが,店内はとても温かく感じた。
「傘,傘,傘……」
あった。白い持ち手に透明なビニール。何とも無難なデザイン。けど,今はデザインなんて関係無い。雨に濡れることさえ無ければ,それで良い。
さあ,早く会計を済ませてしまおう。そう思ったが,一抹の不安が日本の胸をよぎる。
(…もし,少しでも濡れたことを怒られたら?)
あれ程の心配性だ。例え少しだったとしても,怒らない可能性はゼロじゃ無い。
「はぁ…面倒だな…」
日本は仕方無く,アイスのコーナーに足を運んだ。機嫌が悪いときには,アイスを。いつもやっていることだ。
「アメリカさんが好きなのは…これ」
一つのアイスを手に取る。
「僕は…これ」
そして,自分用のアイスも。
「すいません,お会計をお願いします」
静かな店内に,商品をレジに通す音だけが響く。外では雨がザアザアと,ますます強く降りしきっていた。
日本は,その様子をぼんやりと見つめながら,家に帰った後のことを考えていた。少し濡れた日本に驚くアメリカ。その機嫌を取ろうと,買ってきたアイスを手渡す自分。リビングで一緒にアイスを食べる二人。
日本は,その様子を思い浮かべて,微笑した。
丁度,レジに商品を通し終わった。日本はすぐに会計を済ませた。
「ありがとうございましたー」
そうして,店を後にした。
「はぁ…」
思わず,ため息を漏らした。外に出てみたら,先程店内で見た時よりも,遥かに強く雨が降りしきっていたのだ。風は木々を揺らし,雨は無数の矢のように降りしきる。見上げれば,真っ黒な空が何処までも続いていた。鋭い雷鳴がとどろき,もはや歩いて帰るのは危険なのでは,と思う程,外は荒れていた。
「行くしかない…!」
日本は覚悟を決めて,雨の中を走り出した。
ばしゃばしゃと足元の水を踏んで,駅まで必死に走る途中,日本は不思議なものを見た。
遥か遠くに,アメリカが見えたような気がしたのだ。…まさか,自分を迎えに?いや,今日はアメリカも出勤だ。会社は反対方向だし,迎えに来る時間は無いはず。だとしたら,どうして。
好奇心は猫をも殺す。
家に帰って尋ねれば良かったものを。人違いならそれでいい。ただ,気になる,確めたい。日本は,後をつけることにした。
人気の無い,閑静な住宅街。一体こんな所に,何の用があるのか。後をつけている人はと言うと,近付けば近付く程,見覚えのある後ろ姿に重なる。アメリカに違い無いだろう。…ただ,その隣。遠くからでは気付けなかったが,小柄な人物がいた。傘をさすアメリカに添うようにして歩いている。…相合傘,ということだ。何か話しているらしい。随分と仲が良さそうだ。
「アメリカさん…」
不安げに,アメリカの名前を呟いた。あわよくば,気付いてほしいとも思った。
その時,一つの家の前で,二人が足を止めた。こじんまりとして可愛らしい,一軒家だ。アメリカは傘を畳み,その家に入る小柄な人物を見送った。どうやら,その人の家らしい。
…まだ,何か話している。その人は,アメリカさんの手を握った。まるで,家に入ってよ,とでも言っている様だった。
そこで,何かがプツンと切れた。
日本は,走り出した。
どうして。どうして,あの人を送っていたんですか?どうして,相合傘なんてしたんですか?…その人を送る余裕はあっても,僕を迎えに来る余裕は無いんですか。
ゴウゴウと唸るような大雨は,遂には日本の持っていた傘を吹き飛ばしてしまった。
「あ…!」
突然,傘を奪われ,バランスを崩した日本は転んでしまった。固くて冷たいアスファルト。運悪く日本の下敷きとなったアイスは,蓋が外れ,ぐちゃぐちゃになってしまった。
「…どうしよう」
アイスが無かったら,きっとアメリカは機嫌を崩す。また,怒られる。
どうしてそんなに濡れてるんだ,もっと自分を大切にしろ。
いつの日かの,アメリカの言葉が思い出された。
…すぐに怒る。けど,理不尽に怒っている訳じゃ無い。いつも,日本の身を心配して怒る。
「…どうしよう…」
震える声で,日本は呟いた。
「どうしよう…どうしよう…どうしよう…」
繰り返し,何度も,何度も。
やけにしょっぱい液体が,頬をつたう。
潰れてぐちゃぐちゃになったアイスは,ドロドロと雨に流されて,もうどうしようもない。そして,日本の頭の中も,同じ位ぐちゃぐちゃだった。
アメリカさんは,あの人の家に入ったのかな。あの人は,アメリカさんと,どういう関係なんだろう。
「…浮気,してるの,かな」
無駄な事ばかりが,頭の中を回った。違う,そんなこと無い。だって,僕とアメリカさんは付き合ってるんだから。考えては,否定して。そんなことを,何度も何度も繰り返した。
雨は,止まない。
スーツは結局びしょ濡れだった。それどころか,転んでしまったせいで,泥までついていた。
「…はやく,帰らないと」
帰った所で,何の意味がある。そもそも,アメリカさんは帰って来ていないかもしれない。日本は,躊躇った。それでも帰らなければ,何も始まらない。
空になったアイスの包みを握りしめて,日本は,立ち上がった。
コメント
4件
気になりすぎて滅です.゚・*.*。;ω;`)
あああああああああああああ可哀想なにぽん可愛い😭😭✨すまないがもっと可哀想な目に遭ってくれ。 アメさん!!浮気、ダメ、絶対ッ!!!!! 神作ありがとうございます!!後編も楽しみにさせていただきます!!!