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「そ、総長?」
「今度はピアーニャが攫われた……」
意味が分からないという顔のネフテリアとリリに、ミューゼがどういう事か説明をする。
「えーっと、たぶんですけど、アリエッタはピアーニャちゃんを連れて、私達の話の邪魔をしないように、別室に行ったんだと思います。あの子賢いから、お姉ちゃんとして良いところ見せようとしてるみたいですし?」
普段から頑張ってピアーニャの世話をしようと頑張っている姿を知っている為、ミューゼの推理には誰もが納得した。
「で、どうするし? 肝心の幼女総長がいなくなったし」
話をしようとしていたピアーニャが攫われ、アリエッタから取り戻すかどうかで悩むが、それに待ったをかけたのは、リリだった。
「あの、私一応要件知ってますので。お話ししますね」
「そうだったの? じゃあよろしくお姉様」
リリはノートを取り出して、一番新しいページを開くと、気を取り直すようにコホンと咳ばらいをして、視線を上げた。
「総長は皆さんを連れて、故郷であるハウドラントへ向かうつもりなんです」
こちらはアリエッタと、連れ込まれたピアーニャ。ミューゼの部屋で小さなクッションを出し、2人で座っている。というより、ピアーニャは座らされている。
「アリエッタよ……どういうコトなのだ……」(きいたところで、わからんが)
「ぴあーにゃ、ぴあーにゃ……」(えっと、邪魔にならないように連れてきたのはいいけど、どうしよう。他の誰かと遊んだこと無いや)
部屋に連れてきたは良いが、何をするかは全く考えていなかった。アリエッタは使える言葉は少なく、話は出来ない。その為、物で遊ぶしか無いのだが……
(この世界の子供ってどうやって遊んでるのさ! ピアーニャとどうやって遊べばいいんだ!?」
(なぜかオロオロしだしたな……しかたない、リリにはつたえてあるし、カンサツしてやるか)
目の前で攫われたというのに迎えが来ない為、腹をくくったピアーニャ。どうせここには自分達しかいないと考え、アリエッタの行動に合わせる事にした。
その観察対象であるアリエッタは、焦っていた。
(えーっとえーっと、じゃんけん…ルール同じかどうか分からないし、教える事なんて出来ないしダメ。けんけんぱ…は外でやるしかないからダメ。あやとり…紐無い。ゲーム機なんてあるわけない。そもそもテレビとかそういう物は見たことない。どうしよう……)
(いったいどうしたのだ? てもとをみて、なにかかんがえているのか?)
思いつく遊びを次々に可能かどうか考えていくが、どうにもいい方法が思い浮かばない。前世でも1人で絵を描く事に慣れ過ぎてしまったアリエッタには、他の子供と遊ぶというのは未知の領域だった。
「うぅ……」(どうしよう……)
(なきそうなんだが!? わちはどうすればいいのだ!?)
今度はピアーニャがオロオロしだした。大人歴の長いピアーニャにとっては、会話が出来ない子供の考えはさっぱり分からない。ましてやアリエッタの人としての知識がどうなっているのか不明な状態で、アリエッタが望む事など分かる筈も無い。
ここには体は子供、頭脳は大人の超人が2人揃っている。しかし、2人共相手を普通の幼児だと思っているせいで、お互いが思考の年齢レベルを必死に下げようとし、結局どうしたら良いのかわからないという混沌とした状況に陥るのだ。
「ぐす……」(僕、ぴあーにゃが楽しみそうな事何も知らないんだ……駄目なお姉さんなんだ)
「あ~っと、えーっと……」(まずい、アリエッタをなかしたとおもわれたら、あのふたりにおこられる! せめておちつかせねば)
おまけにアリエッタの『泣き虫』が発動しかかっている。
急いで周囲を見渡すピアーニャ。しかしここはミューゼの部屋。小さな観葉植物が多く、アリエッタを泣き止ませる事が出来る物は……
「あった!」
手に取ったのは、テーブルの上にあった紙。部屋でもアリエッタが退屈しないようにと、常に数枚置かれていたものだった。
その紙を手に取り、アリエッタの目の前に持っていく。
「ふぇ?」
「ほらアリエッタ、カミだぞカミ」
「かみ…」
ピアーニャはアリエッタに抱き着いて、無理やり作った笑顔で紙を見せる。本格的に泣く前に落ち着かせようと必死である。
「かみ……」
「そうだカミだ。なにかかくんだろう?」
(こ、ここはお姉さんらしく、ぴあーにゃが喜ぶ物を……そうだ!)
(えをかけば、アリエッタはおちつくハズだ。たのむ、なきやんでくれ!)
ピアーニャの願いが届き、アリエッタが紙を手に取った。しかし、アリエッタは筆を持つ事は無かった。その代わり……
「えっ、なにをしているのだ!?」
(こーして、正方形にして…こうやって……)
「お、おい。アリエッタ? フデは……いったいなにをするつもりだ……?」
(ぴあーにゃ喜んでくれるかな……)
せっせと作業をし、そして間もなく完成した。アリエッタが紙を使って作っていた物、それは、
「ぴあーにゃ」(出来たよ~折り鶴。まぁ鶴はいないだろうから、鳥だけど)
「……えっ。なんだこれ、トリ? 1まいのカミだけでつくったのか? これもなにか、フシギなチカラをひめているのか?」
出来上がった折り鶴をまじまじと見つめるピアーニャ。何が起こるのか興味津々である。
(よかった気に入ってくれたみたい。これはぴあーにゃにプレゼントしよう)
アリエッタはそのまま、折り鶴の下部と尾をつまみ、引っ張って見せた。すると羽部分が動き出す。この折り鶴は『パタパタ鶴』だったのだ。
「おぉ!?」(ほんとうにトリのようだ。これもアリエッタのチカラなのか?)
紙は貴重品という程ではないが、大人の仕事用として扱われている為、紙で遊ぶという文化は無い。長く生きているピアーニャだが、『折り紙』は初めて見る物だった。
「ぴあーにゃ……」(もらってくれる?)
「え、わちに? そ、そうか、ありがとう……」
ピアーニャがそれを受け取ると、アリエッタは満面の笑顔になった。一瞬その笑顔に見惚れたピアーニャだったが、すぐに気を取り直して手元の鶴を見る。
(ふしぎなものだな……あいつらにもみせてやらねば。パフィたちはしっているのか?)
(やった! 喜んでくれた! よーし……)
不思議そうに折り鶴を眺めている横で、せっせと手を動かすアリエッタ。
(難しいのは作らない方が良いよね。それにぴあーにゃはちっちゃいから、壊してもすぐ作れる方が安心だし)
そうして出来上がったのがこちら。
「なんだこりゃー!?」
(どう? 頑張ったよ!)
ピアーニャの前に並べられた、5つの折り紙。
花、葉、風船、箱、鳩。どれも紙1枚で作れる子供向けの折り紙である。本来絵や文字を描く紙で作った為、真っ白ではあるが、しっかりと折られ造形されていた。
(ふっふっふ、立体的な絵を作る実験で折り紙にも手を出したのが役に立った。やっぱり妹が喜んでくれるのは嬉しいねー。今度は切り絵とかも見せてあげようかな?)
ピアーニャが興味津々に折り紙を見ている姿を見て、アリエッタはすっかりご満悦。泣きそうになっていた事も忘れ、ニコニコしている。
「ア、アリエッタ……これもらっていいのか?」(しっかりとしらべねば……)
(うん? もっと作ってほしいのかな? もうここには紙ないし、リビングに取りにいかないと)
アリエッタは立ち上がり、リビングに向かう事にした。もともとピアーニャに譲る為に作っていた折り紙を持って、ピアーニャの手を取り部屋を出る。
(もどるのか? なんでだ? やはりコドモのかんがえているコトは、よくわからん。わちらがオトナとしてしっかりみちびいてやらねばな)
(ぴあーにゃはちっちゃいからね。お姉さんとしてしっかりエスコートしてあげないと)
似たような事を考えながら、仲良くリビングへと戻っていった。
「ぅえぇっ!? なにこれぇっ!!」
「なんだ…おまえたちにもわからんのか……」
当たり前だが、リビングは騒然となった。
「これかわいい~、お花みたい」
「これは鳥ですね。まさか紙だけでここまで……」
「部屋でこんな事してたのよ? 他には何もなかったのよ?」
「う…うむ。なにもなかったぞ」(なきそうになったとか、ぜったいいえん……)
(あれ? くりむがいない?)
クリムはアリエッタが部屋にいる間に、店に帰っていた。
折り紙をそれぞれ慎重に手に取り、まじまじと見つめる一同。しばらくアリエッタや折り紙、そして今後の予定について話し合った後、帰る時間となった。
「ぴあーにゃ!」(これ持ってって!)
「ん? くれるのか?」
玄関でアリエッタがピアーニャに渡すのは、もちろん折り紙。
興味はあるが、本当に貰えるとは思っていなかったピアーニャは、驚いて素直に礼を口にする。
「ありがとう……」
「ステキなプレゼントですねぇ。今度私にも作ってもらえるかしら」
「それはアリエッタのみぞ知るのよ」
折り紙を受け取ったピアーニャ達は、リージョンシーカーへと帰っていく。
ピアーニャを元気よく見送ったアリエッタは、ミューゼに手を引かれ、家の中に入っていった。