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── ハウドラント ──
そこは一面の白世界。ふわふわもこもこ雲の上。とっても幻想的で、奇妙なリージョン。
雲は下に、地は上に。けれども空は上に、人は下に。
上下があべこべ? そうでもない? 滅茶苦茶すぎるその光景。
初めて訪れるお客様へのご忠告。自分の居場所を見失わないよう気を付けて……───
「ほわ~……」(まっしろだ)
「こりゃまた、すっごいリージョンなのよ……」
アリエッタとパフィが仲良く口を開けて、周囲の光景に見入っている。
「あたしも初めて来たけど、本当に雲の上ね」
一同はピアーニャに連れられて、雲のリージョン『ハウドラント』へとやってきた。
「それではイドウする。のってくれ」
『はーい』
全員『雲塊』に乗り、のんびりと道を進む。雲を道として整備した部分は人が歩き、壁のように高い部分を『雲塊』が低空飛行で通るという、独自の決まりがある。
「さて、まずはわちのジッカにいくぞ。なんかイロイロききたそうなカオしているようだが、それはあとで、シヨウニンたちにすきなだけシツモンするといいだろう」
『はーい』
今回ピアーニャに連れてこられたのは、アリエッタ、ミューゼ、パフィ、ネフテリアの4人。
ネフテリアは何度かハウドラントに来たことがあるようで、初体験の3人をニヤニヤしながら見守っている。
その中でも、ミューゼとネフテリアの間にちょこんと座っているアリエッタだけが、ピアーニャを真剣な眼差しで見つめている。
(う……なぜアリエッタはわちをにらみつけるのだ?)
(ぴあーにゃすごい。何言ってるかわからないけど、みゅーぜ達に何か頼られてる感ある。むむむ、これは頑張らないと!)
頑張り屋の泣き虫アリエッタの闘争心?に火が付いた。お姉ちゃんとしては、妹分に頼ってばかりではいられない。見知らぬ場所で何か出来る事は無いかと、考えるようになった。
(なんかこわいな。いったいなにをかんがえているのだ……)
人通りの多い場所から、徐々に開けた場所に移動し、橋のようになっている雲の上をしばらく進むと、いままでの雲から少し離れるように浮かんだ小雲にたどり着く。そしてその小雲には、大きな屋敷が建っていた。
雲を固めた白い壁だけでなく、ファナリアにもあった濃い色の石が柱として使われ、庭には土を用いて大きな花壇が作られ花や木が植えられていた。
「うわはー、綺麗な庭ねー」
「雲だけじゃないのが意外なのよ」
(凄い! 描き残したい!)
さらに小さな雲が数個浮かび、空に向かって雨が昇り、それを囲むように円形の虹がいくつもかかっている。
雲と花と虹に囲まれた豪邸、それが……
「わちのジッカだ。すうじつだが、ゆっくりしていってくれ」
『はーい』
「? はーい」(とりあえず返事しとこ)
『おかえりなさいませ、お嬢様』
「うむ」
『をじょうさま!?』
屋敷前で『雲塊』から降りるなり、白いワンピースに水色のエプロンをしたメイド達に出迎えられ、ミューゼとパフィが驚愕した。
「ふっ、おどろいたか」
「まぁセグリッパ家の功績をちゃんと知らないと、驚きますよね」
「総長の家って、過去に何かやらかしたのよ?」
「やらかしたとは、ひとぎきわるいな!? まぁそれはアトだ。まずは──」
屋敷の中に入ろうとしたその時だった。
「ピアーニャ! おかえりなさーい!」
「あ、かーさま」
ピアーニャは、涼しい顔で『雲塊』を目の前に広げた。
べちっ
「ぶへっ!?」
広げた『雲塊』の壁の向こうで誰かがぶつかり、すぐに元の球体へと戻す。
その先にいたのは、うずくまる女性と、ため息をつく男性だった。
「かーさま、とーさま。ただいま」
「ああ、おかえり。ピアーニャ」
「うぅ…痛いよピアーニャ……」
ピアーニャの両親である。
母親はネフテリアと同じくらいの18歳といった見た目で、父親はロンデルと同じくらいの30歳前後といった見た目だ。
「かーさま…総長のお母さんって、若いね」
「ハウドラント人って、見た目と年齢がかみ合わないのよ?」
ミューゼとパフィはピアーニャの母親に衝撃を受けていた。ピアーニャの年齢が100歳を超えているのは有名である。それを考えても、母親の見た目が若すぎるという事でショックを受けている。
一方その隣にいるアリエッタは、屋敷に着くなり難しい顔をしていたが、ハッと顔を上げた。
(……わかった! ここはホテルだ! 豪華だし、綺麗だし、『いらっしゃいませ』みたいな事言ってたメイドさんみたいな人がいっぱいいるし)
残念、大間違い。
ロンデルの事をピアーニャの父だと思っているアリエッタが真実へたどり着くのは、現在ほぼ不可能だった。
(凄いなぁみゅーぜとぱひー、僕とぴあーにゃを連れて旅行出来るくらいの稼ぎなんだ。てりあもそれくらい稼いでいるのかな? むむむ、早く僕も働けるようにならなければ……)
間違いと尊敬がアリエッタの中で膨れ上がっていく。
「お久しぶりですネフテリア様。こちらの方がパフィさんとミューゼオラさん、そしてアリエッタさんですね。私はピアーニャの父、ワッツと申します。どうぞよろしく。」
「ごきげんよう」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくなのよ」
(この人がオーナーさんかな?)
礼をしたワッツは、アリエッタを見て一瞬悲しそうな顔をするが、すぐに優しい笑顔になり、屋敷の中へと一同を招く。
「積もる話は食事の時にでも。まずは部屋へと案内させましょう。ピアーニャ、遊んでないで客人を案内してさしあげなさい」
「あそんでるのはかーさまだ! わちはホカクされてるだけだー!」
(ぴあーにゃが可愛がられてる。あのお姉さんの気持ち、よく分かるなぁ……)
ピアーニャに案内という用がある為、母親はあっさりとピアーニャを開放した。
「はぁ…よし、へやにいくぞ」
『はーい』
「またあとでねー」
両親に見送られたピアーニャとメイド2人に案内され、やってきたのはベッドが3つある大きな部屋。先日ミューゼの家で話をした時に、リリが宿泊のリクエストを聴き、それに合わせて部屋をメイキングしたのである。
「うわー、大きな部屋なのよ。これは落ち着かないのよ」
「かんそうがヒドいな……まぁわからんでもないが」
メイドによる簡単な部屋の説明を受け、少なめに持ってきた荷物を置く。いざとなればニーニルやエインデル城にすぐに取りに戻れる小旅行なので、必要最低限の日用品や紙、そして仕事道具を持ってきていた。
(わー、広い! これってスイートルーム? きっと高かったんだろうなぁ……ここまでするって事は、みゅーぜ達には何か目的があるのかな?)
1つのベッドに近づき、物思いにふけっていると、ミューゼが後ろから近付いてきた。
「アリエッタはそのベッドがいいの? それじゃあ今夜から一緒に寝よっか~」
「えー、それじゃあわたくしもそのベッドでねますー」
「ちょっと、私もアリエッタと一緒に寝るのよ。ベッド大きいから入れるのよ」
アリエッタの取り合い…ではなく、くっつきあいが始まった。
「おまえら…ベッド3つのいみ……」
その光景を見て、ピアーニャとメイド2人が呆れている。
「さて、それじゃあ荷物も置いたのよ。改めて挨拶に行くのよ」
「じゃああたし達は~…庭に行こっか。アリエッタが外見てるし」
前もって打ち合わせしていた事で、ピアーニャとパフィが両親への挨拶へと向かう。
ミューゼ達はメイドに付き添ってもらい、散歩に出るのだった。
「改めて、ピアーニャの父のワッツです」
「母のルミルテです。先程はお恥ずかしい所をお見せしてしまいました」
広い屋敷の広いリビングへとやってきたピアーニャとパフィ。宿泊の挨拶と情報共有をするため、ちょっとしたお茶会が始まっていた。
「パフィさん達の事は、ピアーニャからの手紙で存じております」
「は、はい」
「アリエッタちゃんは大変でしたね……わたし達はまだ手紙でしかその事を知りません。食卓で話す事でもないですし、よろしければ詳しくお話してもらえませんか?」
ルミルテが窓の外へと目をやると、庭を散歩しているアリエッタが見えた。不思議そうに口を開けて、雲と登っていく雨を見ている。
釣られてその光景を見たパフィとピアーニャは、アリエッタについてゆっくりと話していった。
「あのグラウレスタで一体何が……」
「ううっ……アリエッタちゃぁん……そんな境遇なのに、まだちっちゃいのに、言葉も知らないのに、なんでそんなに優しいの……ぐすっ」
「奥様……替えのハンカチです……」
「ありがと…これもうすでに貴方が濡らしていますけど……」
「も、申し訳ございません」
ルミルテとメイド2人が揃って泣いている。序盤であるパフィとの出会いの話からずっと泣いている為、3人で濡れたハンカチを量産していた。
対照的に、ワッツは難しい顔をして俯いている。
「ピアーニャよ。あの子の正しい年齢は分かるか?」
「……むりだ。じょうほうがなさすぎる」
「だろうな……もしあの子が我々ハウドラント人と同じ長命種であったら……」
それは若い年月が長いハウドラントの人々にとって、とても恐ろしい想像だった。
「もしそうだとしたら、森で数年どころの話じゃないのよ」
「いやあぁぁ!!」
「いっこくもはやく、あいつのショウタイをさぐらねば……」
ルミルテは悲鳴を上げ、ピアーニャですらも顔色を悪くしている。
こうしてアリエッタにとって身に覚えのない『悲劇』は、異世界を跨いで着実に尾ひれ付きで広まっていくのだった。