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その少女と僕の関係をどう表現すればいいのか、時としてとても困ることがあった。
彼女は親戚であるのと同時に、同じ遺伝子を持つ妹でもあったからだ。
けれど、それは誰に対しても秘密だった。
恐らく、怪しんでいる人たちはたくさんいると思う。
僕と真帆ねえ、シモハライさん、そしてその少女――真奈。
「――ご家族ですか?」
そう訊ねられたことが、果たしてこれまでに何度あったことだろうか。
その度に、僕はなんとも複雑な思いのなか、
「あ、いいえ、親戚です」
と答えなければならなかった。
いや、もういっそ「そうです、家族です」と答えたほうが楽だったかもしれない。
多少の嘘を吐いたところで、誰かが損をするわけでもない。
親戚だって、見方によっては家族といえば家族に違いはないだろうし、なによりも、
「あ、お兄ちゃん、おはよう~!」
真奈自身が、僕のことをそう慕ってくれているのだから。
それは桜の花もすっかり散り、青々とした葉が芽吹き始めた、四月も終わりに近づいた頃のことだった。
僕は相変わらず楸古書店の二階に居候をしながら、真帆ねえたちと一緒に暮らし続けていた。
「おはようございます、カケルくん」
魔法堂のある母屋のリビングに入れば、テーブルに朝食の準備をしていた真帆ねえと真奈の姿があって、
「おはよう、ふたりとも」
僕はキッチンへと足を向けた。
そこではシモハライさん――いや、今はもう楸優という名前なのだけれど――が目玉焼きを焼いており、こちらを振りむくと、
「おう、カケル、おはよう~」
「何か手伝うこと、ある?」
「ちょうどトーストが焼きあがったところだから、持って行ってもらえるか?」
「わかった」
「ありがとな~」
そんな日常を、もう十年も僕たちは続けていた。
僕はトーストを皿にのせると、リビングへと引き返した。
実は僕もそろそろ独り暮らしを考えているのだけれど、
「え~! せめてわたしが小学校卒業するまで待って!」
となぜかそうせがんでくる真奈に、断ることができなかったのだ。
長らくお付き合いさせてもらっている彼女がいて、そろそろ僕も結婚を考えているところなのだけれど、果たして三十を目前とするこの歳で、いつまでも居候を続けることにも少しばかり考えてしまうところだった。
まぁ、真奈も今年で十一歳。
約束のときまであと二年くらいだから、彼女が待ってくれている限り、この可愛い妹のためにこの場にとどまっていようと思った――の、だけれど。
実のところ、目下僕の気にしているのは、そこではなかった。
真帆ねえの使い魔であるクロがリビングの隅で一心不乱にご飯を食べているその横に、もう一匹、靴下を履いたような足が特徴の黒猫が、同じようにかつかつとエサ皿に顔を埋めているからである。
この靴下猫のことを、真奈は『むぅ』と名前を付けた。
その名前の由来は――夢魔。
かつて真帆ねえのなかに取り込まれ、存在していた意思を持った魔力という特殊な存在。
僕はまだ真奈が真帆ねえのお腹にいたとき、確かに夢の回廊を通じて接触したことがあったのだけれども……
「……おはよう、クロ、むぅ」
僕が声をかければ。
「あぁ、カケルか」
クロが口を開いて、
「……オハヨウ」
むぅも僕を見上げて、そう返事したのだった。