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Side日菜
わかっていたけど、収録がオンエアされた後は、店はいつも以上の大忙しだった。
でも。
ちょっとちがうのは、男のお客さんが多いこと。
「すみませんー注文いいすか!」
「はーい」
「こっちもおねがいしまーすっ」
「はーい!」
あっちこっちから、男のお客さまからのオーダー。
今日に限っては、女のお客さまより多い気がする…。
不思議だなぁ。いつもと逆転しちゃってるよ。
「おい日菜」
「は、はい…!」
男のお客さまの間をくるくる回っていると、道をふさぐように、ずいっと晴友くんが近づいてきた。
『嫌いじゃねぇよ、バーカ』
不意に、昨日の言葉がよみがえって、晴友くんの顔が見れなかった。
すっごくうれしかったな…。
ぶっきらぼうだけれど、晴友くんは嘘は言わない人だ。だから…すっごくほっとした。
だって、ずっと嫌われていると思ってたんだもん。
あんまりうれしくて、ニヤけてしまいそう。
気持ちわるいヤツって思われたくないから、上目づかいにおそるおそる晴友くんを見上げる。
すると晴友くんは、ちょっと眉をひそめて視線をそらした。
でも、すぐにぶっきらぼうに、
「…今日は、その、大丈夫か?」
「……え?」
なにが?大丈夫なんだろう?
不思議に思って首をかしげると、晴友くんはまた視線をそらしてしまった。
「なにもないなら、いい…」
「う、うん…」
なんだか、ヘンなの。
前はにらむように真っ直ぐ見つめてきたのに、急に目をそらしたりなんかして。
ん…?
顔が赤い?熱でもあるのかな…?
「具合がわるいの?」と声をかけようとしたら、不意にじっと見つめられた。
「…もし、ヘンな客に絡まれたりしたら、絶対に俺を呼べよ。わかったか?」
「え…?」
「わかったか、って訊いてんだよ」
「…あ、はい」
有無を言わせないような口調に、わたしは思わずうなづいた。
そして、ちょっと胸が弾んだ。
だってそれって、フォローしてくれるってことだよね…?
こんなこと言われたの初めてかも…!うれしいな!
撮影をどうにかこなせて、ちょっと認めてくれたのかな…?
「ありがとう…晴友くん」
思わずにっこり笑いかけた。
今度も目をそらされるかな…?
と思ったけれども、次の瞬間、わたしの胸はキュンと甘くうずいた。
晴友くんが、ほんの一瞬、小さく微笑んでくれたから。
こんなこと初めてだった。
…これは夢?
なんてぼんやりしていたら、晴友くんはさっさと踵を返してお仕事に戻っていく。
「だいじょーぶ日菜ちゃーん?疲れてない??」
晴友くんの微笑をぼーっと思い出していたら、拓弥くんが声を掛けてくれた。
「なんか顔が赤いよ?」
「へ!?そ、そう?」
「ホールをクルクル回って注文うけまくってるから、頭がいっぱいいっぱいになってるんじゃない??ったく、あの客たち日菜ちゃんにしか話しかけないんだもんなぁ。露骨すぎ」
「失礼ねっ。私にも注文してくるわよっ」
そこにホールから戻って来た美南ちゃんが割り込んできた。
「もー今日はすーっごいことになってるわねぇ。ここまでとは予想以上だわ。
あのオンエア、わたしも見たけどすっごくいい出来だったもんね。びっくりしちゃった、あれアドリブだったんでしょ?あんなにスラスラ紹介できるなんて、すごいよ日菜ちゃん」
「う、ううん…!ここのスイーツのことだったからだよ。それ以外のことであんな風にしゃべれ、って言われても絶対無理だから…」
「ふふふ、謙遜しないしない!はぁ、それにしても多いよねぇ、男の客。なんかむさ苦しくて、いつもの落ち着いた店の雰囲気が台無し、ってカンジ」
と美南ちゃんらしいキツい言葉の通り、今日は本当に男のお客さまが多い。
しかもカップルが多いのに、ふたり連れとかひとりで来ている人が多いのも、いつもとはちがう特徴だ。
なんて見回していたら、ん、なんか男のお客さんたちが、こちらをチラチラ見てくる。
あ、あれ、スマホ向けられてる…カメラ…??
「あーもうウザいなぁ、さっきから隠し撮りとか!あたしなんかさっき脚撮られてたんだよ?気持ちワルイっての!」
「マジかよ?美南の大根脚なんか撮ってなにがいいん、ぐはっ」
「今日ばっかりは自分がチヤホヤされないから妬いてるのかなぁ、拓弥ぃ」
「美南、てめっ、客がいる前で殴るのやめろっ。…って、実は俺もさっき『撮影は遠慮してくれ』って注意したんだけどな。全然聞いてねぇみたいだ」
と、美南ちゃんと拓弥くんが不愉快そうにしていたら、
「あれ、晴友くん…?」
が、スマホを向けていたお客さまの前に行って何か話し掛けた。
すこし言い合い、みたいな感じになって…最後にお客さまは立ち上がって出て行ってしまった…。
「あちゃー、一番キレてんのは晴友かぁ」
拓弥くんが苦笑いした。