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「守満《もりみつ》様、ご覧になられましたか?」
晴康《はるやす》は、屋敷の縁《えん》を望む。
そこには、凛々しい顔を、きゅっと強ばらせた、守満の姿があった。力強い双眸《ひとみ》は、射るような視線を琵琶法師に送っている。
「お師匠様?どうゆう事でしょう?お話くださいますか?」
脅しのような、守満の言葉に、琵琶法師は、チッと舌打ちすると、
「……陰陽師か。妙な者を側に置きおってから……」
言い捨てて、タンッ!と、地面を蹴った。瞬間、琵琶法師の姿が、皆の前から消え去る。
あっ!と、声を挙げた時には、琵琶法師は、築地塀の上に飛び乗り、外へ逃げようとしていた。
「晴康!」
守満が、捕らえよと叫ぶ時には、その姿は、もう、なかった。
「あいたたた。あー、晴康殿、ちょっと、手を貸してくださいな!晴康殿!」
「紗奈姉《さなねぇ》!大丈夫かい!」
依然転がりこんだままの上野を、守満が縁から伺っている。一方、晴康は──、琵琶法師同様、姿を消していた。
「えーー!いない!!人を突飛ばしておいて!あー!鼻緒、切れちゃったし!」
「本当に、災難だったね。でもさあ、髭モジャの声色、よく似てたよお!はははは!」
「声色って!あーー!!声がもどってる!あれは、真似じゃなくってですね……って、えー!守満様!何時からそこにっ!」
「うん?紗奈姉が、転がる前から」
「ですからっ!紗奈姉というのは、子供の頃のことで、守満様は、もう、少将様なのですからっ!」
「だって、幼馴染みだろ?」
「ご自身のお立場をお考えくださいませ!!!」
守満は、はいはい、と、いきり立つ上野をなだめるように返事をした。