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ピピピピピピ――……
「あーうっせ、うっせぇ……音マックスだなこれ」
手探りで、ベッドの脇に置いたスマホを掴もうとするが、なかなか見つからない。やっと手に取って画面を見てみれば、アラームは鳴ったまま止まっていなかった。俺は、仕方なくアラームを止めてから、大きく欠伸をした。
眠気が覚めないまま体を起こして、外を見る。
随分と懐かしい夢を見たものだと思った。懐かしいといっても二年前の夢。大人になると、二年などあっという間で、最近といわれれば最近なのだろうが。
「おーい、空。起きろ~」
「ん~」
隣で寝ている空の身体を揺さぶるが、布団にくるまり中々出てこない。すやすやと小さな寝息が聞えてくるばかりで起きる気配は全くなかった。
空は元々朝が苦手で、寝起きがよくない。良くないと言っても、機嫌が悪い……というよりかは、小さな子供のようになるといった方が正しいだろう。
「おい、今日は空が料理当番だろうが」
「わかってるぅ」
「じゃあ早く起きろよ」
「うう……ねむいぃ」
そう言って、空は更に深く潜ってしまった。俺は呆れてため息をつくしかなかった。
同居を初めて二年経つが、かわりばんこに料理やゴミ出しの当番を決めた。忙しいこともあって当番を決めたところで守られたことは全然ないわけだが、今日は朝ゆっくり寝ることを条件に空が当番になっている。久しぶりに休みが重なったため、俺も朝のランニングをやめてこうして寝ていたわけだが、仕方ない。
ベッドからおり、俺はキッチンへと向かった。未だに空に甘い自分がいて、甘やかしている自覚はあった。空は、頼りがいがあると言ってくれるが、姉のいる俺としては、俺なんて姉ちゃんに劣るんだろうな……などと考えてしまう。比べたところで何にもならないが。
「……カラだな。冷蔵庫の中」
俺は、独り言を呟きながら冷蔵庫を開けた。中身を見れば、殆ど食材がなく、卵すらもなかった。俺は、もう一度大きな溜息をついてから、財布をポケットに入れて家を出た。
雲のない晴れた空。青色で、何処までも続いている高い空を見て、太陽の眩しさに思わず目が眩む。
警察になってからも、朝のランニングは欠かさなかった。否、俺は身体を動かすのが好きだったからずっと続けていたというのが正しい。俺の取り柄はそれだけで、それを取ってしまったら何も残らないと思ったからだ。
陸上に、あのステージに未練があると言えば、きっと未練があるのだろう。後悔はしていないが、もしそっちの道を選んでいたらどうなっていたか。時々考えてしまうのだ。
(今更……って感じだろうがな)
コンビニに着き、よさげな冷凍食品やカップラーメンを買って帰る。カウンターでタバコの箱を見て、絶対に空には吸わせたくないとふと思ってしまった。俺は、酒は飲むがタバコは吸わない。どっちも飲んで吸っていたら身体が壊れてしまうだろう。いつもは気にしない健康の事なんて気にして、俺は帰路につく。
「おーい、空。いつまで寝てんだ」
「やだぁ、まだ寝てるの……」
「麵伸びるぞ?」
「朝から、ラーメンとかいや」
帰ってきた俺は、寝室に行って空を起こしにかかる。空は、頑に布団に潜って出てこない。カップラーメンの準備は出来ているため、早くリビングに戻らなければ伸びてしまう。だが、それすらも嫌だと空は拒否した。いつものことだが、俺は布団をヒッペ替えす。すると、ゴトン……と痛そうな音と共に、空が床に落ちた。
「……うっ」
苦しげな、カエルの潰れたような声を漏らし、空がようやくもぞもぞと動き出した。目を擦って起き上がると、俺の方を見て「おはよ」と今ようやく起きたのだという言葉をかける。
「遅えって」
「んん~いい夢見てたから」
「どんな?」
「秘密」
と、空は悪戯っ子のように笑って立ち上がり、リビングに向かって歩き出した。俺もそのあとに続くように歩く。
幸い、カップラーメンはのびで折らず、文句を言いつつも空はそれを平らげた。朝飯を食べ終わり、片付けをしてからソファに座ってテレビをつける。ニュースを見ていると、速報で、捌剣市で起きた殺人事件のニュースが映し出される。相変わらず物騒な町だと思う。
「また、事件かよ」
「ミオミオの所にはこの事件まわってきてないの?」
「ん~いや、俺のところにはまわってきてねえな。つか、他にも殺人事件やら強盗やらでてんやわんやだからな」
物騒すぎ~と、空は笑いながら言っていた。笑えないなあ、と二人で苦笑しつつも、他愛もない会話をする。この時間が好きだなと思う。
こんな日が続けばいいと願う。ずっとこのままで、平和であってほしいとも思う。
「そういえばさ」
「ん?」
「ハルハル、何してるかなあって」
そう言った空の言葉に、俺は手を止めた。
二年間連絡のない友人。そもそも連絡先を知らない友人、明智の話が空の口から出てくるとは思っていなかったのだ。どういった風の吹き回しか。いいや、俺も嫌いではないし、気にしていたが、忙しくて忘れていたこともあって、珍しく思ったのだ。俺が、どうしてだ? と尋ねれば、空は小さく唸りながら答える。
「夢に出てきたから……かな?」
「ふーん、良い夢って明智と出会った夢かよ」
「まあ、それもあるけど。良い夢って言うのはまた別にあって」
あっ、そっちは内緒ね? と言いつつ、空はウィンクをする。可愛らしいその仕草にドキリとしつつも、その「良い夢」とやらが気になって眠れそうにないなあなど、俺は考えつつも明智の話に戻ることにする。
明智が夢に出てきた。だから、明智はどうしているか気になった。全く単純だと馬鹿にするわけではないが笑ってしまう。そんな俺を咎めるように、空は酷いなあ。何て口にする。そんな俺を置いて、空はスマホをつきだし、とあるサイトを指さした。
「実はね、ちょーっと前に言い情報を見つけて」
そう言って空が指さしたページにはとある探偵事務所の依頼ページだった。