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「アン!」
あれ?ゲイルさん?
叫びながら飛び込んだ瞬間に、ゲイルを見た。
ケリーの背後に立ち、驚いた顔をしていた。
いつも無表情な人なのに、何に驚いていたのだろうか?気にはなったが、それよりもアンだ。
リオは思いっきり腕を伸ばして、なんとか袋を掴んだ。
リオは魔法が使える。でも魔法を使っても、空は飛べない。だから近づく地面に手のひらを向け、硬い地面を柔らかくする魔法をかけた。
アンを胸に抱いて身体を丸め、なるべく背中から落ちるように、空中で器用に向きを変える。何度か木の枝にぶつかりながら、地面に落ちた。
上手く背中から落ちたが、全身に鈍い振動が伝わり、しばらく動けずにいた。
落ちた直後に魔法の効力が切れて固くなった地面に寝転び、激しい雨に打たれていたが、このままだとアンが風邪を引いてしまう。
そう思って起き上がろうと力を込めた瞬間、足に激痛が走る。
「痛っ!……え、なに?着地に失敗した?」
もっと強く魔法をかければよかった失敗した情けないと落ち込んでいると、袋からアンが頭を出して「アン!」と鳴く。
「アン!よかった…大丈夫そうだな?」
アンが袋から飛び出て、リオの腕にすり寄る。
どこも怪我をしていないことがわかって、リオは心底安堵した。
「よかった…おまえが無事ならいいよ」
アンの頭を撫で、リオは仰向けに寝転んだ。
さて、どうしようか。足の怪我を魔法で治すことはできる。だけど、崖から落ちて無傷で戻ると、ケリーに怪しまれる。それに、確かケリーの後ろにゲイルもいた。仲間だったのか?それともゲイルはたまたまあそこにいた?どちらにしろ、二人には崖から落ちた所を見られている。運良く足の怪我だけで済んだと思わせた方がいいだろう。
「それにしてもケリーのやつ、ひどいことしやがって。なにか試すとか言ってたな。まさか…俺が魔法を使えるかどうかを試したのか…?いや、まさかな」
ブツブツと呟いていると、腕の中にいるアンがぶるると震えた。
リオは慌ててアンをベストの中に入れ、何度も背中を撫でてやる。
「ごめんな、寒いよな。どこか雨宿りできる所を探そう」
リオは、痛む足を庇うようにしてなんとか立ち上がり、木に手をかけながら、雨をしのげる場所を探して移動を始めた。
すぐに大木の|洞《ほら》を見つけ、アンを抱きしめて中に入る。ちょうどリオ一人がおさまる大きさだ。
リオは魔法でアンを乾かし、自身は服の|裾《すそ》を絞って長く息を吐き出した。
「ギデオン…来てくれるかな。足が痛くて崖の上まで戻れる気がしないよ」
朝早く起きて、結構歩いて、アンと遊んで、強い魔法を使って疲れた。
リオは寒さに震えながら、眠くて眠くてたまらず、少しだけ眠ってもいいかなと目を閉じようとした。
その時、|微《かす》かにギデオンの声が聞こえて、急いで洞から這い出た。