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「ーーよって、レティシア・フォン・アルヴェール。貴様を本日をもって断罪する。」
大理石の広間に、冷たい声が響いた。
玉座の前、私は一人、跪いている。
顔を上げれば、そこにはかつての婚約者、第一王子。
その隣には、涙を浮かべた“ヒロイン”の少女。
そして、彼女を囲むように立つ攻略対象たち。
…ああ、知っている。この光景。
「レティシア。あなたはこれまで、彼女を妬み、蔑み、執拗にいじめ続けた。身分を盾にした卑劣な行い、見過ごせない。」
違う、と喉まで出かかった言葉は、音にならなかった。
否定しても無駄だと、もう分かっていたから。
私は確かに厳しい言葉を口にした。
けれど、それは社交界の作法であり、忠告であり、彼女を守るためですらあった。
でも、そんな事情は物語には不要だ。
ここでは私は“悪役令嬢”。
彼女を苦しめるためだけに存在する、踏み台の役。
「…異議は、ありませんわ。」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
周囲がざわめく。
悪役が素直に罪を認めた、そう見えたのだろう。
王子が鼻で笑った。
「命までは取らん。国外追放とする。二度と、この国の土を踏むな。」
それは、慈悲のつもりだったのだろうか。
私は静かに立ち上がり、ドレスの裾を整えた。
胸の奥が、ひどく静かだった。
(…ああ、これで終わりなのね。)
誰も、私を見ていない。
見ているのは“悪役令嬢の最期”だけ。
広間を出たあと、私は一人、城の裏手へ向かった。
誰にも見送られず、誰にも止められず。
高い塔の上。
夜風が、やけに冷たい。
追放されて生き延びる未来?
…正直、想像はできなかった。
それでも。
それでも、死にたいわけじゃない。
ただ、少しだけ、頭を冷やしたかっただけ。
私は手すりに手をかけ、空を見上げた。
星が、こんなにも綺麗だったなんて。
「…次は、ヒロインに生まれたいものですわ。」
誰に聞かせるでもない、弱音のような願い。
その瞬間。
ギ、と嫌な音がした。
「…え?」
古い石の手すりが、夜風に煽られて軋み、次の瞬間、支えを失った身体が前のめりになる。
ドレスの裾が足に絡まり、体勢を立て直せない。
「——っ!」
伸ばした指は、空を掴んだだけだった。
重力が、容赦なく私を引きずり落とす。
悲鳴は夜に溶け、視界が白く弾ける。
(…ああ)
最後に思ったのは、後悔でも絶望でもなく。
(やっぱり、悪役令嬢は、物語から、逃げられないのね。)
意識が闇に沈む、その瞬間。
胸の奥に、奇妙な予感が灯った。
もし、次があるのなら。
今度は、断罪されない人生を。
そして、世界は、完全に暗転した。