テラーノベル
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その日の夕方。
フォージャー家の空気は、
ほんの少しだけ違っていた。
父はいつも通り新聞を読んでいる。
母はキッチンで夕飯の準備。
見た目は何も変わらない。
——だけど。
「(……ちがう)」
アーニャは、ソファの上で足を
ぶらぶらさせながら思った。
父の心が、
いつもより「かたい」。
母の心が、
いつもより「そわそわ」。
そして。
「…父、りなのおねーさん、きょうくる?」
「今日は来ない」
「……」
父の返事は早かった。
迷いがない。
——でも。
「(うそじゃないけど、かくしてる)」
「え〜、アーニャ、あいたかったのにぃ」
アーニャは口をとがらせて話した。
「仕方ないだろ。また今度だ。」
「こんどって、いつ?」
「……そのうちな。」
「(少しだけ、父、迷った。)」
アーニャは、その“スキ”を逃さない。
「(…父、りなのおねーさんと
おはなしした)」
「(しかも たのしくないやつ…)」
アーニャは、ソファから
ずり落ちて床に座る。
「…ねぇ母ぁ」
「はい、なんでしょう?」
「りなのおねーさん、すごいひとだよね!」
突然の話題に、ヨルは少し
驚いたように振り向く。
「そ、そうですね……とても落ち着いて
いらっしゃいますし!」
「アーニャ、すき!りなのおねーさん!」
「まぁ、それは良かったです!
私も好きですよ、リナさん。」
母はにこっと笑う。
でも、その心は少しだけ揺れている。
「(母、また任務のこと考えてた。)」
アーニャは分かっている。
大人たちは、 それぞれちがう
“かくしごと”をしていることを。
でも、誰も悪い ことを
しているつもりはない。
「(…アーニャには、むずかしい)」
夕食のあと。
アーニャは、ロイドの横に
ぴったりくっついた。
「父、つかれてる?」
「……なんでそう思った?」
「…なんとなく!」
子どもらしい答え。
でも、ロイドは一瞬だけ視線を逸らした。
「……大丈夫だ。」
「ほんと?」
「ああ」
「(…だいじょうぶじゃないくせに。)」
アーニャは、心の中でそう言った。
その夜。
布団に入ったアーニャは、天井を見つめる。
「(りなのおねーさん、
かなしいかおしてた)」
今日はいなかったのに。
それでも、分かる。
大人たちの心が、
どこかでつながって、
ぎゅっと、からまっている。
「(アーニャ、秘密はまもらないとだめ)」
ひみつは、だいじ。
いったら、
こわれる。
アーニャはぎゅっと布団を握った。
(だから、アーニャは——)
——なにもしらない、こどもでいる。
でも。
(みてる)
ちいさな胸で、
ぜんぶ、みてる。
その頃。
同じ夜空の下で、
〈IRIS〉は一人、立ち止まっていた。
自分が選んだ“猶予”が、
誰のためのものだったのか。
まだ、答えは出ていない。
ただ一つだけ、確かなこと。
——あの子は、
すべてを知ったせいで、笑えていない。
コメント
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最高です!神作品すぎます👏 続き楽しみにしています!