第12話:人親子と初めてのフラクタル料理
🚶♀️ シーン1:迷い込んだ親子
昼のにぎわいが一段落した頃。
塔のふもとにある《碧のごはん処(ミドリ)》の暖簾が、ふわりと揺れた。
入ってきたのは、見慣れぬ母子。
母親は戸惑った様子で店内を見回し、
子ども――6歳ほどの男の子はキョロキョロと目を輝かせている。
「す、すみません……ここ、観光案内に出てなくて……」
タエコは厨房から顔を出し、にっこり笑った。
「そりゃそうや、ここ“碧族専用”やもん。でも――ま、座ってき」
👦 シーン2:子どもだけが反応する
母が遠慮がちに椅子に座る間、男の子はカウンターにぴたっと張りつき、湯気に手をかざす。
「わぁ……これ、光ってる!」
すずかAIが静かに報告する。
「非碧族体内に微弱な碧素共鳴反応を検知。遺伝的適性の可能性あり」
タエコは眉を上げ、さりげなく炊飯端末に指を滑らせた。
「ほな……特別メニュー、いっとこか」
🍙 シーン3:フラクタルおにぎり、調整版
《FRACTAL_COOK_MODE=HUMAN_ADAPT》《BOND_TRACE=ON》《ENERGY_LIMIT=SAFE》
青白く光る碧素米に、通常より刺激の少ないフラクタル結合を組み合わせ、 中にはほんのり甘い藍昆布。
握られたおにぎりは、光りすぎず、香りだけがふわりと立ち上がっていた。
「はい、おにぎり。あんた専用やで」
男の子は両手で包み込むように持ち、ぱくっとかじった。
「……おいしい……」
🌸 シーン4:未来へと続くひとくち
母親は微笑みながら、タエコに頭を下げた。
「なんだか、ありがとうございます……。子どもが喜んで食べるなんて、久しぶりです」
タエコはカウンター越しに、おにぎりをもう一個差し出す。
「うちのごはんは、誰でも食べられるようにしてんねん。たまには、そういう日もええやろ」
すずかAIの音声が、穏やかに記録を残す。
「非碧族対象、反応記録ログ保存。可能性、微細に観測」
男の子は、ふとタエコを見上げて言った。
「おばちゃん……また来ていい?」
「もちろんや。ほな、次は“碧素カレー”でも出しといたる」
未来の扉は、たった一口のおにぎりから、開かれるのかもしれない。
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