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仕事はできてお金持ち、女性の同僚やお客様からの人気は絶大だ。
いったい誰が独身の綾井店長のハートを射止めるのかと、この店ではその話題が尽きることはなかった。
おまけに性格も優しくて、みんなに慕われる立派で素敵なリーダーだ。
揉め事もあまり無いし「AYAI」に就職して本当に正解だったと思う。
そして、もう1つ、この職場を選んで良かったと思える理由がある。
「綺麗ですね、この桜」
「ありがとうございます。お客様も桜はお好きですか?」
「ええ。見ているだけで癒されます」
来店するお客様はみんな、この店のすぐ横にある大きな桜の木を見て感嘆する。
この時期、立派な桜の木に優しくふんわりと咲く可憐な花達は、いつだって見る人に元気を与えてくれ、自然に笑顔にさせてくれる。
「AYAI」の創業者、綾井店長のおじい様がかなり昔に植樹したそうで、こんなに美しい桜を育ててくれたことに感謝は尽きない。
3年前、入社して初めてこの桜を見た時、胸が踊るような気持ちになり、何かが始まる予感がした。
「鳳条 龍聖」を忘れられるような、そんな期待感。
あれからもう3年も経ったんだ……
時の流れの速さに驚く。
でも、それだけの時間が通り過ぎても、残念ながら、私の中の「最後の思い出」が消えることはなかった。
最初の頃は必死に忘れようとしたけれど、もがけばもがくほど頭に龍聖君が浮かんできて、それはとても無駄な努力なんだと気がついた。
今は無理に全てを忘れようとはしていないし、それに苦しめられているわけでもない。
自然な成り行きに任せるのが1番良いんだと思っている。龍聖君と過ごした大切な日々、その思い出はそう簡単には消せないと思うから。
こうして桜を見上げていたら、子どもの頃のことが鮮やかに蘇ってくる。
そう、私には他に、どうしても消せない思い出がある。