2LDKのハイツは建真の部屋と寝室兼私の部屋(しかも私の方が狭い部屋)となっている。建真の部屋に入ってタンスを開けてみた。勇者のようになにかいいアイテムをゲットしたい。そしてそれは転売する。
しかしめぼしいものがなにもない。
がさごそ探してもロクなものが見つからなかった。
しいて言うなら…
『夫のYシャツを手に入れた』
『夫のパンツ(使用しているが洗濯済)を手に入れた』
スーパーアイドルの使用済シャツとかならともかく、魔王(おっと)の使用済シャツやパンツなんか売れないから一文にもならないって!!
誰も買ってくれないよっ。
早速その場に戻し(捨て)た。
タンスは諦め、クローゼットに手を伸ばす。
ここはなにか入ってそうな予感がするのよね。
い ざ !!!!
クローゼットに手をかけた時だった。
ピーンポーン
あまりにタイミングよくインターフォンが鳴ったので飛び上がった。心臓がばっくばっくしている。
別に夫のクローゼットを開けるくらいでこんなにも挙動不審にならなくても、と自分でツッコみたくなるほど、私は激しく動揺した。
いったい誰よっ!
「お届け物でーす」
来客を確認すると宅配便のドライバーだった。『山下』と名札の付いた宅配業者のお兄さんから荷物を受け取った。彼は帽子を取って会釈をしてくれる爽やかなお兄さんだった。どこかで見たことがある爽やか青年だけれども、どこで見たかな。思い出せない。うーん…確か彼も魔王とか呼ばれていたような気がする…。(わかる人ありがとう)
…まあいいや。爽やか山下さんはとにかく建真とは大違いだった。
受け取った荷物を見てみた。品名はゴルフ用品。私から巻き上げたお金で買ったんだろうか。それとも私が必死に稼いだお金は、全部晴奈への貢ぎ物で消えているのだろうか。
(なにせよ証拠…)
とりあえず宅配の荷物を撮影した。ほんとうにゴルフ用品なのかも怪しい。
送り主はどこかの流通センターとなっていた。
勝手に荷物を開けるわけにはいかないので、とりあえずそれを抱えて健真の部屋に戻った。小さい箱だ。ゴルフ用品なんて書いてあるけれど、いったいなんの荷物? ゴルフボールなんか通販で買うのかな。
まあ、そんな荷物よりもクローゼットよ!
タンスはめぼしいものがなかったので、どどーんとクローゼットを開けた。ずらりと並んだ高級スーツにジャケット・コート…。よくこんなにいろいろ買えたもんだね。いったい誰のお金で買ったのかなぁ?
怒りがわいてくる。たとえ二束三文でもいいから根こそぎ売りさばきたくなった。
とにかくお金になるものを見つけよう。
クローゼットを漁ると、奥の方に紙袋があった。手前の袋を見ると箱に入ったネクタイが何本か入っている。
(これ…見覚えがある…)
うそ…このネクタイって――
(こっちは私が建真の誕生日にプレゼントしたやつ!)
(こっちは記念日に…)
うそでしょ!?
私があげたもの、ほとんど手つかずでそのまま紙袋へ押し込まれていた。
(どれが建真に似合うかなって、一生懸命選んだのに)
全部紙袋から引っ張り出すと、結構値段がしたものだけがなくなっている。クローゼットの右側に普段使っているネクタイがかかっている場所があるので見てみると、私が贈ったものは一切なく、全て自分で調達したのか晴菜からの贈り物なのか、わからない別のネクタイが吊り下がっていた。最近ほとんど俯いているから、建真のネクタイの柄まで見ていなかった。
(高額なものは…多分売ったんだ)
(晴菜とのホテル代に消えたんだろうな…)
私がなにも言わないから、バカにされてる。あまりにも悔しくなってここで暴れたくなった。しかし惨劇を起こしても自分で泣きながら片づけしている絵しか思い浮かばず、まだまだレベルが低いので魔王には勝てない雑魚だと現状を思い知った。
私は滲んだ涙を拭いて、紙袋に押し込まれていたネクタイを掴んだ。
いくらになるかわからないけれど、これを売ってお金に換えてやる!!
思い出上等!
今の私にすれば、それに値段が付くなら最高よっ!!!!
というわけで、早速見つけたお宝を自分の部屋に移した。これを売って飲み代ゲットぉ!
でもこれだけじゃ飲み代にまだ足りないかもしれない。
他にめぼしいものがないか再調査するために建真の部屋に入った。元は私が贈ったものであったり、私が稼いだお金で買ったかもしれないものがここに転がっているのだと思うと、もう人の部屋に入って盗人みたいなマネをしていることに、一切の罪悪感は持たなかった。否、持つ必要などない!!
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