コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「全く!なんじゃ、お前は!!捨てられていたのを、私が拾って、ここへ連れて来た。姫君の飼い猫と、おだてたのが、いけなかったか?!それとも、所詮は畜生か、恩を忘れおって!!」
守孝は、苛立ち紛れに、一の姫猫へ扇を打ち付けた。
フギャー!と、姫猫は悲鳴のような鳴き声を上げて、守孝から離れた。
「姫猫様!!」
タマが、一の姫猫に駆け寄り、大丈夫ですか、と、労うが、ムムムと、顔を真っ赤にして、守孝を睨み付けた。
「本当の、悪党は、お前かっ!!
」
言い放ち、があっと、口を開け、噛みつく勢いを見せる。
「ふん、こざかしいっ!!」
と、守孝は、相手にしていない。
「ホホホ、猫は、役にたたぬ。やはり、私がおらねば、事の真相は、分からぬじゃろ?」
守孝は、皆を逆撫でるような、嫌みを、仕掛けてきた。
「あー、でた。ホホホ!」
すぐさま、紗奈が、守孝の揚げ足を取った。
「そもそも、よその御屋敷の事ですもの。私たちには、これ以上関係無いこと。何がどうあれ、結局、唐下がりの香が、原因だと、わかったのですから、それで、十分な話では?」
などと、追い討ちをかけ、守孝へ、微笑みかける。
紗奈よ、と、髭モジャが、守孝への態度を心配するが、紗奈は、平然として、
「何せ、私と、守孝様の中。北の方にならぬかと、お心を傾けてくださるほどですからね。もう、多少のことは、なんとも思われませんよ。なにより、公達なるもの、器が大きくなければねぇ……女に、多少、愚図られたところで、お気になどされませぬわ、ホホホホ!」
と、紗奈は高笑った。
「そうじゃのお、どうせ、この屋敷も、朝になれば、無くなっておる、そして、野次馬の餌になるだけじゃ、真相、など、市井の者が、これでもかと、首を突っ込んで来て、暴いてくれるわ」
紗奈の言い分に、なるほどと、頷きながら、髭モジャが、意味深な事を言う。
「あっ!!髭モジャ!組み紐作りの、有里のおじちゃんなら、すぐに調べあげるよ!」
「はっ、何を戯けたことを。お前達は……、それで、私を脅しているつもりか?」
紗奈と髭モジャが弾けている様子に、守孝は、嫌悪を表し、一の姫猫に、引っ掛かれた頬を隠すように、袖を当てるが、その、袖には、一の姫猫の毛が、ごっそりと、ついていた。
なんじゃこれは、なんとかせい!と、守孝一人、乱れているところへ、
「まあ、そろそろ、頃合いじゃな」
髭モジャが言うと同時に、もう~と、牛の鳴き声がして、バリバリと、踏み崩す音がした。
「ありゃー、若め、門の扉を、蹴破ったか」
髭モジャの言葉に、常春と紗奈は、顔を見合わせた。
いくらなんでも、御屋敷の、正門、その扉をどうすれば……。
しかし、髭モジャの言葉は本当のようで、屋敷の守り役、宿直《とのい》していた、随身達が、扉が破られたと、大慌てしている。
もう~もう~と、若の鳴き声が、響き渡っていた。
続いて、おーい!と、髭モジャを呼ぶ声がした。
「おーー!崇高《むねたか》よ!こっちじゃー!東の対におる!」
もう~と、何故か、若が、鳴いて返事をした。
「髭モジャ?どうゆうこと?」
「おっ、すまん、ちょっと、手が離せんのじゃ、話は、後で。常春殿、女童子を頼むぞ!」
髭モジャの様子に、何事か起こる、のは、常春にも紗奈にも、予見できた。
ただ、守孝だけは、のほほんと、縁に座り込んで、猫の毛がついただなんだと、わめいていた。
何が起ころうが、自分は、中将。いや、この屋敷の者が、助けてくれると思い込んでいるらしい。
「……さあ、縁から、降りて、若の所へ行くのじゃ。タマ、夜目のきくおまえが、常春殿達を、案内いたせ」
守孝に、聞こえない様、髭モジャは、こっそりと言った。
そして──。
房《へや》へ、入り込み、置いてある灯り、高灯台を、蹴り飛ばした。
ぼっと、床に焔が燃え移る。しかし、炎は、小さくなり、プスプスと音をたてながら、消えようとしている。
「おっと、こりゃいかんな」
言って、髭モジャは、そこへ向かって、他の高台を蹴り飛ばす。
今度は、ボッと音をたて、炎が、上がった。
次々、房に、置かれてある高台を、床へ目掛けてすべて蹴り倒していく。
帳や、几帳など、間仕切りとしている、薄物の布類には、燃え移らない様に、たくみに計算した行いだった。
次に、鼻を摘まみ、
「親方の命だ!屋敷に火を放て!!ここは、もう様無しだっ!!!」
と、叫んだ。
その一声で、静かだった屋敷が、ざわめきだち、方々から煙が流れ始めた。
「やはり、ここも、琵琶法師の手下が……」
髭モジャは、確信していたが、
「はよう、逃げろ!」
と、常春達を急かす。
「髭モジャ!!いいの!これ!」
紗奈の心配に、答える者がいる。
「構わん!どうせ、検分は、我の仕事。まあ、皆は見ておれ。だが、今は、早よう、こちらへ!」
検非違使の、崇高《むねたか》が、タマと一の姫猫を懐に入れ、若に、股がっていた。