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「火を放った者から、正門へ行け!親方が、逃げ道を用意している!」
髭モジャに、代わり、崇高《むねたか》が、鼻をつまみ、叫んだ。
髭モジャはというと、頬被りをし、屋敷の奥向きへ進んで行った。
「崇高よ!表向きは、頼むぞ!ワシは、関わりのない者を避難させる!」
「よしっ!西門にも、部下を控えさせておる。髭モジャよ、裏方の者は、西門へ連れて行け!」
おお!と、髭モジャ、崇高は、互いに確認し合った。
「……なるほど、そうゆうことか、しかし!崇高様!この対の入り口に、女房達が、おりました。はたして、皆、手下、なのでしょうか?」
「うん、それは、分からぬゆえ、皆、詰め所で検分する。一人も逃さぬ様に、部下と、助っ人を並べておる。まあ、心配入らぬだろう」
崇高は言う。常春は、一応、なるほどと、返事をしたが、わからない部分があった。そして、紗奈は、まるっきりわからず、ポカンとしていた。
「えーと、何故、二人とも、鼻をつまんでいるのですか?あっ!!唐下がりの香から、逃れるため
ですね!!」
崇高に、確認する紗奈だったが、バチバチと、火が、広がる音が、高まって来た。
「あー、残念ながら、違う。そして、もう、時間がない、早くこちらへ!!!」
崇高に従い、常春が、広縁から飛び降りた。
「紗奈、掴まりなさい!」
言われるままに、紗奈は兄の手を借りて、広縁から、庭先へ降りた。
「さあ!若へ、乗りなされ!」
崇高に従い、常春は、紗奈をまず乗せた。そして、崇高へ、言う。
「さすがに、三人は、若も、動きが鈍りましょう。私は、このまま、逃げます」
ダメです!
小さいが、やけに力強い声が、常春を止めた。
タマが、崇高の懐から、顔を出して、ムッとしている。
「もう!屋敷に火を放って、悪人も出て来てるんですよー!常春様お一人なんて、ダメですよ!!!」
しかし、と、渋る常春へ、タマと一の姫猫が、こくん、と、頷いた。
「ん?もしや、私は、空を飛ぶのかっ?!」
「あー、それ、無理です。兄様、高い所苦手だもの。里の柿の木にも、登れなかったのよ。空なんて、無理!!」
で、なんで、兄様は、空を飛ばなきゃいけないの?と、紗奈は、首をひねった。
「ホホホホ、やはり、紗奈は、鈍《どん》じゃな。それでは、香も、効かぬわ」
守孝が、流れてくる煙りを吸わぬ様に、袖で顔を隠しながら、言った。
「で、私の迎えは、どうなっておる?」
と、逃げる準備を催促した。
「あー、そうか、まだ、おられたのか。こりゃー足手まといじゃのおーホホホホと、きたもんだ。なのでっ、ほらよっ!」
崇高が、手にもっていた、松明を、広縁目掛けて放り投げた。
が、勢いがつきすぎ、房《へや》の中にまで、転がり込んで、そして、運悪く、なのか、狙って、なのか、火は、間仕切りの几帳に燃え移ってしまう。
ボッと、勢い良く火は、燃え始めた。
「な、なんじゃ!お主!私は!私は!」
焦る守孝へ、崇高は、ほほほ、と笑いながら、
「ですから、そこから、こちらへ、降りればよろしい話。じっと、座り込んでいる人が、おりますか」
と、言った。
そんな、やり取りを行っている隙に、タマ達は、崇高の懐から転がり出て、一の姫猫が、巨大化していた。
「そう、そうじゃ、姫猫よ、私を乗せるのじゃ!」
守孝の、身勝手さに、一の姫猫は、ニャー!と、鼻息荒く鳴いた。
その鳴き声と、ともに吐き出され
た息で、房の火は、勢いづく。
「おっ、これは、都合良いわ」
崇高の一声に、もう~と、若、も鳴いた。そして、ブウワーと、鼻息を火に向かって吹き出した。
一の姫猫と、若の、鼻息で、房は、炎に、包まれる。
「う、うわあーーー!な、なんだっ!!!」
転がっていた、通晴《みちはる》が、目覚め、驚きの声を上げた。
「お主、私を連れて、逃げるのじゃ!!おお、家令《しつじ》は、どうした!!いや、この、屋敷の者は!!!」
あたふたしている、守孝に、紗奈は、含み笑った。
「まだ、その程度の火ならば、廊下へ出て、表へ逃げられますよ?守孝様?」
「おお、そうじゃ、火は、几帳の辺りを燃やしておる、表へ逃げるぞ!通晴、早うせい!」
と、言い捨て、広縁から、わざわざ、火が放たれ、混乱している屋敷の中へ足を向けた。
充満しつつある、煙に、小悪党達の姿は消された。
「わざわざ、危ない方へ逃げるとは」
呆れる崇高へ、
「公達ですからね。縁から、庭先へ飛び降りるなど、考えもおよばないのですよ。回廊を渡って、そして、中門で、沓《くつ》を履き、正門を潜って表へ出る。そんな、固まった考えしか、もっておられないのです」
常春が、呆れながら、言った。
「ほおー、ホホホホと笑い、煙の中を、行く、位のあるお方は、さすがだわ」
聞かされた事に、崇高も、呆れ返った。