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二人が公式に「夫婦」となって迎える、何度目かの結婚記念日。
この日ばかりは、政務を部下に任せ、二人は一対の翡翠を胸に、お忍びで街へと繰り出した。
「ひろぱ、見て! あの頃、僕が術で咲かせた椿と同じ色の着物だよ」
元貴が指差すのは、和と唐の刺繍が施された賑やかな呉服屋の店先だ。
かつての悲痛な面影はどこにもない。元貴の表情は、十歳のあの頃よりもさらに瑞々しく、愛する男の隣で心からの安らぎを享受していた。
「……ああ。だが、本物のお前の方が、よほど綺麗だ」
不器用な台詞をさらりと言ってのける滉斗の横顔は、もはや「氷の死神」と呼ばれた冷徹なものではなかった。
最強の剣士としての風格はそのままに、その瞳には、元貴という光を反射する、深い優しさが湛えられている。
二人は手を繋ぎ、かつて逃避行の末に辿り着いたあの港町を彷彿とさせる、海沿いのレストランへと足を運んだ。
「今日は、僕が予約しておいたんだ。ひろぱが好きな、あの辛い香辛料を使った唐のお料理が出るんだって」
「俺の好みを覚えているのは、お前くらいだな」
食事を楽しみながら、二人はこれまでの歩みを静かに振り返った。
戦火に焼かれたあの日、絶望の中で結び直された指先。
吹雪の中、互いの体温だけを頼りに夜を越えた日々。
それら全ての苦難が、今、目の前で微笑む相手をより一層、かけがえのない存在にしていた。
食後、二人は夜の帳が下りた王都を一望できる、あの秘密の庭園へと向かった。
そこには、かつて二人が誓い合った「氷の椿」が、今夜も月の光を受けて幻想的に輝いている。
「ねえ、ひろぱ。覚えている? あの時、君が『一生守る』って言ってくれたこと」
「忘れるはずがない。……そして、その誓いは今も、一瞬たりとも揺らいでいない」
滉斗は、元貴の細い腰を抱き寄せ、その額に優しく唇を落とした。
元貴の胸元で揺れる翡翠と、滉斗の懐にある翡翠が、共鳴するように微かな光を放つ。
「僕もだよ。君が守ってくれるこの国で、君と一緒に年を重ねていけることが、僕の人生で一番の奇跡なんだ」
元貴がそっと滉斗の頬に手を添えると、滉斗はその温もりを噛み締めるように目を閉じた。
最強の盾と、慈愛の王。
二人が織りなす物語は、この先もずっと、この国の穏やかな風と共に語り継がれていく。
「愛しているよ、元貴。……来年も、その先も、ずっとこうしてお前の隣にいたい」
「うん、約束だよ。ひろぱ」
夜桜が舞い散る中、二人は再び、深く静かな口づけを交わした。
それは、琥珀の中に閉じ込められたあの日よりも、ずっと自由で、ずっと温かな、永遠の愛の証明だった。
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