──やがて週末になり、政宗医師との約束の日が訪れた。
待ち合わせ場所の駅前のロータリーに佇んでいると、車のエンジン音が近づいてきて、目の前にぴたりと横づけられる。
そうしてパールホワイトの磨き上げられた車体のドアが開くと、カジュアルにスーツを着こなした彼が降りてきて、
「どうぞ」
と、長くしなやかな指を私に差し伸ばした。
駅に出入りする人も大勢いる往来で、彼の隙のない優雅な装いと、鏡面のように磨かれた車との対比に、周りの視線が一斉に集中するのが感じられて、
伸ばされた手を取り、注視の目から逃れたい一心で、そそくさと助手席に乗り込んだ──。
車内で、ようやく身体を落ち着けると、
「あの…もう少し、人がいないところで待ち合わせた方がいいような……」
さっき味わったばかりの気恥ずかしさから、そう彼へ提案をした。
「どうしてです?」
意味がわからないといった顔つきが、私に向けられる。
「……目立ちすぎるので……先生は、いろいろと……」
この人っていつもは完璧に取り繕ってる分、意外と素顔は天然な所もあるのかもと思い、その表情を窺ってみるも、
「構わないじゃないですか。目立ったところで、さほど困ったりはしないでしょう?」
私の考えを本当は察しているのか、クスリ…といたずらっぽい笑みを浮かべて見せた。
「困りはしないですけど……」
やっぱり天然な訳もなく、素でも勘は鋭いように感じて、
「……目立つと、恥ずかしいですし……」
たぶんもう既に彼には見抜かれているのだろう私自身の本音を、ぼそっと口に出した。
すると、彼は、
「……恥ずかしさもまた、君の気持ちをつのらせるための一環ですよ…」
そう本気とも冗談ともつかない口調で喋って、再び薄っすらと微笑を覗かせた。
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