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#幽霊
凛道桜嵐 新
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#日常
がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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夜ソファで千歳とゆっくりしているとき、スマホに着信が来た。え、こんな時間に? 誰だ?
スマホの画面を見ると、富貴さんからだった。どうしたんだろう?
「もしもし、どうしたの?」
着信に出ると、富貴さんの焦った声が聞こえた。
「あ、あの! こんな時間にごめんなさい! 金谷さんに相談したかったんだけど、篩建築事務所分所もう閉まっちゃってて、それで和泉くんしかいなくて!」
篩建築事務所分所とは、金谷さんや緑さんが所属している事務所である。心霊現象が起こって困るのは建築が多いから建築事務所を名乗っているとかなんとか。
「どうしたの、何かあったの?」
「みーちゃんがいなくなっちゃったの!!」
「みーちゃん?」
えーと、こないだ富貴さんのところに出た小さい女の子の霊、自分のことみーちゃんって言ってたっけ。その子か。
富貴さんは泣きそうな声をしていた。
「成仏しちゃったの? まだ私、もっとしてあげたいことがあったのに!」
「ちょっと待って、千歳ならわかるかもしれないから、スピーカーにするから千歳とも話してくれないかな?」
『ん? ワシか?』
タブレットで小説を読んでいた千歳が反応した。俺は千歳に謝った。
「ごめん、ちょっとお願い。富貴さんのところのあの小さい子がいなくなっちゃったんだって」
『んー? 成仏にはまだ早いけどなあ?』
千歳は首を傾げたが、スピーカーでの富貴さんの会話に応じてくれた。
『えーと、話をまとめると、あの子が遊びたいことで遊んでやったり、好きなもの食わせてやったりしたら、いなくなっちゃったってことだな?』
「そうなの、今日帰ったらどこにもいなくて」
『まあ、確かに成仏には早いんだけども』
「外に出て迷子になっちゃったの!?」
『いや、多分そうじゃない。ひとつ聞きたいんだけどさ』
「何?」
『あんた、妊娠してないか? それだったら、あの子、あんたのお腹に入っちゃったと思う』
「ええ!?」
通話でもわかるくらい、富貴さんのでかい声が響いた。
に、妊娠……そうか、一度ダメでも見込みがあるなら再トライする人だよな、富貴さんは……。
俺は富貴さんに聞いた。
「えっと、こんなこと聞くのも悪いけど……妊娠に心当たり、ある?」
「えっとその、ないわけじゃないけど……ちょっと待って……」
富貴さんがかなり混乱しているのが、声音から伝わってくる。
「一度流産しちゃってから、生理ガタガタだったのよ……何しても全然整わなくて……もう無理なのかなって思ってて……」
あー、そうだったんだ。仕事は順調でも、その辺が大変だったのか……。
「えっと、俺そんなに詳しくないから変なこと言ったらごめんなんだけど、妊娠の有無だけなら妊娠検査薬とかで、病院行かなくてもわかるよね?」
「わかる、検査薬まだうちに残りある、ごめんなさい、ちょっと調べてくるから、つないだまま待っててくれない? もし妊娠してなかったら、私どうすればいいのかわからなくて、ごめん」
「いいよ、待ってる」
「ありがとう」
10分くらい沈黙があり、その間に俺は千歳に「あの子が富貴さんの子に生まれ変わるって、確かなの?」と聞いた。
『まあ、本当の本当に100%確定するには狭山先生みたいな人に見てもらわないといけないけど、この件は状況的にほぼ確定って感じだ。小さい子の霊が、あの世行きには早すぎる期間で消えて、霊の時優しくしてくれた女の人が妊娠した、ってなったら』
「なるほど……」
やがて、富貴さんが戻ってきた。
「……妊娠してた……」
「あ、よかった、おめでとう」
「本当にあの子なの? 本当にあの子が私のお腹にいるの?」
富貴さんは別の意味で泣きそうな声になっている。千歳が言った。
『状況的にほぼ確定だ。あの子、あんたの子になって、あんたにかわいがられたかったんだよ』
すると、スマホから富貴さんの嗚咽が聞こえ始めた。
「わ、私、あの子の本当の母親になるんだ、なれるんだ……」
「本当によかったね」
「う、生まれてきたら、私のこと覚えてる? この子」
『うーん、霊だったときのことはほぼ忘れてるだろうけど、あんたのことが大好きなのはそのままだし、性格も好みも似てるはずだ』
「そうなの……そうなの……」
俺達はしばらく富貴さんの嬉し泣きに付き合った。大分泣きが治まってから、富貴さんは言った。
「本当にありがとう、相談しなかったら何にもわからないままだった」
『んー、大丈夫。収まるところに収まってよかった』
「和泉くんも本当にありがとう、おめでとうって言ってくれて嬉しかった」
「え? おめでたいでしょ?」
俺はぽかんとした。
「だって、一人で子供作って産もうってだけで、すごく嫌味言ってくる人たくさんいるんだもん。ストレートにおめでとうって言ってくれる人、本当にいなくて」
「そ、そうだったの……」
シングルマザーって大変なんだな……。
千歳が驚いた。
『え、富貴さん旦那いないのか!?』
あ、千歳には話してなかったっけ、そう言えば。
「富貴さん、精子バンクで精子もらって妊娠した人だから」
『そうだったのか!?』
スマホから富貴さんの声が聞こえた。
「あ、その、今回は一応相手いるのよ」
「え、そうなの!?」
今回は彼氏とかいたの!?
「相手が子どもの扱いをどうしたいかわからないけど、とりあえず話し合うわ」
「そ、そっか、でも無理しないでね、妊婦さんなんだし」
「無理はしない、今回は絶対に産む」
富貴さんは、決意を秘めた声で言った。
コメント
1件
わあ、この話、胸がぎゅっとなりました……! 千歳さんの「あんたのお腹に入っちゃったと思う」からの流れ、本当に優しい展開でほっとしました。富貴さんが「おめでとうって言ってくれる人、いなくて」って言うところ、すごく切なくて、でも和泉くんが自然に「おめでたいでしょ?」って返したのが素敵だなあ。霊が生まれ変わるって民俗学的にも面白いテーマなんですけど、作為的じゃなくて「好きな人のところに戻りたい」って自然な形で描かれてるのが、この作品らしい優しさだなって思いました。