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「あの男か!」
三人の揃った声があまりにも大きな声だったので、全員両手で口を押さえた。店にいた客たちの視線が突き刺さるのを感じ、四人は顔を見合わせて苦笑いをする。
「そっか。確か連絡先を交換したって言ってたよね。あれからも連絡を取り続けてたってこと?」
あの日以降、昴とのことは聞かれることもなかったので、三人には特に報告をしていなかった。
「他愛もない会話だけどね。一日にあったことを報告したり」
「毎日?」
「うん、ほぼ毎日。でもメッセージだけだよ。電話はしないし」
「それって友だち以上のやり取りじゃない?」
「私たちだって友だちだけど、毎日メッセージのやり取りなんかしないじゃん」
「恋人未満の友だちだね。っていうか、私は男女に友情が存在するとは思ってないから、友だちって言われても怪しいけど」
「うん、でも彼は友だちだよ。それ以上ではない」
一向に引かない七香からは、友だちでいようとする信念のようなものが伝わってきて、三人はそれ以上の言葉は口にしなかった。
「そういえば、あの時もそんなこと言ってたよね」
楓が昔のことを思い出したように、手をポンっと叩く。
「それを実行してるんだ。じゃあもうあの人に気持ちはないの?」
「友だちとして好きだよ。今はそれだけ……あっ、あと良き隣人であるかな」
羅南は七香の瞳をじっと見つめ、完全に納得したわけではないような、疑いを残した視線を送っていた。
「それで? 今日はシャツが決まらなかったと」
「そうそう。今日はあの人とデートの日だから服を選んでって言うから、私はブルーがいいって言ったんだけど、彼は白がいいって言い張るの。だから好きにすればって言い残して出てきちゃった。あの人、最近は白シャツとボーダーTシャツしか着ないんだもん」
三人は口を閉ざした。昴がまだあの時に話していた女性と繋がっていることに愕然とする。
「……辛いとか、苦しいとか感じたりしないの?」
苦い顔をした翔子に、七香は笑顔で首を横に振ってみせた。
「なんか私って、あの人を好きな彼が可愛いくて、つい放っておけなくて口を挟んじゃうの。彼が幸せならそれが嬉しいし、良くないなぁってわかってるんだけどさぁ」
七香が言うと、羅奈が目を輝かせて口を開いた。
「それってちょっと推し活に似てるね」
「推し活?」
「そうそう。七香はあの人の推し活をしてるんだよ。好きだから応援したい、お世話がしたい、それって立派な推し活じゃない?」
「でも七香は、彼が別の女と関係を持ってても気にしないんだよ。それはちょっと違うんじゃない?」
「でも熱愛報道が出たって、それでも応援するタイプも稀だけどいるし」
「羅奈は?」
「断固拒否。その時点で推し変するわ」
「あはは! 厳しいなぁ。アイドルだって、一人の人間なのに」
「あのねぇ、こっちは人生かけて推してるの! 熱愛なんて、裏切り行為でしかないから」
「おぉ怖っ! 七香はほどほどの推し活にしときなよー」
「はーい」
そこで飲み物が届き、久しぶりに四人で会う女子会がスタートしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
待ち合わせ場所であるホテルに着くと、すぐに早紀からメッセージが届いた。
『食事を部屋に運んでもらったから、直接部屋まで来て』
あんなに七香と揉めながら服を決めたのに、レストランではなく部屋での食事だなんてーー何の意味もなくなり、昴は落胆を隠せなかった。
いや、早紀さんに会うためのオシャレだ。ちゃんと意味はあるじゃないかーーそう自分に言い聞かせながら、昴は混み合うロビーをすり抜けるように、エレベーターまで歩いていく。
辺りを見回すと、どうやら結婚式の招待客のタイミングと合ってしまったようだ。皆ドレスやスーツに身を包み、楽しげに話す様子が窺えた。
到着したエレベーターに乗り込み、窓に映る自分の姿を確認する。グレーのスーツにブルーのシャツ、紫のネクタイ。あんなに言い合ったのに、最終的には七香が選んだものを着用した。すると不思議としっくりきたのだ。
素直に彼女の意見を聞いていれば、あんな風に怒らせることもなかったと思う一方で、七香の怒った顔が案外可愛いことに気付く。怒ると唇を尖らせるのは、昔から変わらない彼女の癖だろう。
エレベーターの扉が開き、指定された部屋の前に到着すると、軽く扉をノックした。しばらくして鍵が外れる音が聞こえ、静かに扉が開いた。
そこに現れた早紀は、昴とは対照的に白いニットにグレーのパンツを合わせており、普段とさほど変わらない格好だった。元々レストランで食べると言っていたにしては、ややラフに感じる。
「悪いわね、ちょっと仕事がバタついちゃって」
そう言った早紀からは疲労の色が見えた。
「ううん、大丈夫。早紀さんこそ、忙しいなら今日はやめておく?」
「あら、久しぶりなのに寂しいこと言わないでよ。私が何のために部屋に料理を運ばせたと思ってるの?」
部屋の奥に案内されると、窓際に置かれたテーブルにフレンチのフルコースが並べられていた。鼻先を掠めるいい匂いに、お腹の虫が反応してしまう。
「おぉ、すごい料理だね」
「そりゃそうよ。一番いいコースを頼んだんだから。でも一番の目的は……」
椅子に座ろうとした昴は、突然早紀に手を引っ張られ、ベッドに押し倒される。不敵な笑みを浮かべて昴を見下ろしている早紀は、彼のベルトに手を伸ばして外し始めた。
「食べるのもセックスも、一部屋で済むじゃない?」
「ってことは、まずは俺が食べられちゃうわけ?」
「そうよ。食事はその後」
早紀にされるがまま服を脱がされ、恥じらいを見せる間もなく全裸になる。七香と一緒に選んだシャツの話題に触れることもなく、早紀は自身も服を脱ぎ去り、昴の上に跨った。
「昴だって、したかったんでしょ?」
そう言われて一瞬口を閉ざしたが、口元に笑みを浮かべて早紀を見つめた。
「……そうだね、早紀さんに会いたかったよ……」
昴が言うと、早紀は彼の唇を塞ぎ、貪るようなキスを繰り返す。互いの舌が絡み合い、早紀は昴のモノに手を伸ばして握ると、その手を上下に動かし始めた。
会話もなく、突如として始まった行為。俺はこれがしたかったのだろうかーー自分に問いかけるが、答えが見つかる前に昴のモノは早紀の中へと吸い込まれていく。
「あぁ、気持ちいい……」
「それは良かった……」
「昴、もっと腰を動かして」
自分の上で動き続ける早紀を見ながら、いつもより集中出来ていないことに気付く。早紀に言われた通り腰を突き上げ、激しく動いていくうちに早紀が絶頂に到達しても、昴の意識は不思議とはっきりしていた。
呼吸も大きく乱れることはなく、少し息苦しさを感じる程度だったが、そこへ早紀が倒れてきたので、両手で体を受け止める。
昴は愕然とした。早紀とのセックスでイケないなんて、人生で初めてのことだった。
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白山小梅
12
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