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「ただ今戻りました!」
玄関のガラス戸がガラガラと開いて、元気な声がする。
「あら、お咲ちゃん帰ってきましたよ?」
月子が出迎えに向かうが、岩崎は心配そうにその動きを見ている。
「あー!月子様!動かないでください!すぐお夕飯の支度に取り掛かりますね!」
廊下でも咲子が、月子の事を心配していた。
「おい!お咲!」
中村が、ちょっと来いと咲子を呼び止めた。
「……お咲ちゃん。お話があるみたいよ?」
月子に付き添われるように、咲子は皆が居る居間に顔を出す。
「お咲、秋山男爵に送ってもらったのか?」
中村が口火を切った。
「……はい。少しカフェに付き合わされて……断りきれなくて……遅くなりました」
咲子は申し訳なさそうに俯いた。
「いや、そりゃー仕方ない。相手が相手だからな。すまんお咲」
今度は中村が頭を下げる。
「……その様子だと、お咲は無理強いされているということか……」
岩崎が眉間にシワを寄せる。
「まあ、そういうこと。色々あって、劇場としても断れないんだ」
厄介な相手だと中村も言い含む。
「えっ!そこ、守るのが支配人ってやつじゃねぇのか?!」
京太郎が肩を怒らせた。
「お前は黙っていなさい」
岩崎が、静かに言った。
「中村、少し私も調べてみよう。同じ男爵だ。秋山とかいう人物の人となりがわかるだろう……」
岩崎は、兄の岩崎男爵へ華族の評判を尋ねてみると言う。
「そうしてくれるか?庶民じゃ、本当のところがわからないからな」
中村は岩崎へ深々と頭を下げた。
「でぇ……評判が良かったら……お咲は嫁に行くのかよ」
京太郎がムキになる。
「あれ?京太郎、何興奮してんだ?いやぁ、なんか若いってのはいいねぇ」
二代目が、にやついた。
「あ、あの!私はお嫁なんか行きません。まだ、そんなの早いですからっ!」
「いや、だけど、お咲もいい歳だろう?行き遅れてもなあ……。で、幾つになったっけ?」
二代目が、咲子の歳を思い出そうとしている。
「……二十一です」
恥ずかしそうに咲子は答えた。
「あら!お咲ちゃん。もうそんな歳に?!」
気が付かなかったと月子が驚いている。
「……そうだな。京太郎が十六だ。五つ違いだから、そんな歳になるな」
岩崎も、どこか感慨深げに言う。
「やだ!そんな歳って!もう少し言い方あると思うけど!」
廊下からひょこりと女学生が顔を覗かせた。
「あら、京子帰ってきたのね」
「お母様、ただ今帰りました。なんだか賑やかだったから覗いてみたら」
案の状、いつもの面子が集まっていると女学生──、京太郎の妹京子が呆れている。
「京次郎ちゃんもお帰りなさい。いい子にしてた?」
言って月子は、両手を広げる。
「あい!かあさま!」
返事をしながら、京子に手を繋がれている幼子が、月子へ駆け寄った。
「京子、京次郎ちゃんのお迎えありがとう」
「当然のことよ!お母様は大変なんだから。京次郎ちゃんの幼稚園のお迎えぐらい私がやるわよ!」
「じゃあ、皆帰って来たことだし、ひとまずお咲ちゃんの千秋楽のお祝いしましょうよ。ふかし芋で」
ふふふと、月子が笑った。
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コメント
1件
お疲れ、井川奎さん! 第3話読み終わったよ〜。咲子ちゃんが秋山男爵にカフェに連れて行かれて気まずそうな感じとか、京太郎がムキになってるのが若いなあって思った(笑)。でも岩崎さんが男爵の評判を調べてくれるって展開、めっちゃ気になる。最後のふかし芋のお祝いでほっこりしたわ。この温かさと緊張感のバランスがいいね! 次も楽しみにしてる🔥