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「御主人の浮気……」
桜志郎は、うつむいている。
真剣に考えているようにも、呆れているようにも見える。
香帆は、話したことを後悔した。
(絶対に呆れてる)
桜志郎はゆっくり顔を上げると、香帆を見た。
「学生の頃、真剣に付き合った大好きな人がいました。
でも彼女は、大手企業に就職内定した男と浮気しました」
塾経営を続ける桜志郎より、エリート候補を選んだ、というわけだ。
「とても悔しかったです。だから、貴女の辛さは解ります」
アナタの辛さは解ります。
この一言に香帆は救われた。
年齢も性別も関係ない。辛さを解ってくれる人が現れた。
話せる人が、聞いてくれる人が、目の前にいる。
それだけで心が軽くなった気がした。
「本当に御主人は浮気してるんですか?」
「絶対にしてます」
「証拠は? スマホの履歴とか、現場の写真とか」
「それは……」
颯真はスマホを手離さないし、パスワードも知らない。
うまく尾行して写真を撮るなんて、香帆には無理だ。
桜志郎は、はっきりと言った。
「離婚するにも、慰謝料を取るにも、証拠は必要です」
『離婚するにも』
ずっと、わざと、意識的に隠していた言葉が、桜志郎の口から出た。
(私は颯真と離婚したいの?)
まだ整理できてない。
どうすればいいのか? どうしたいのか?
今はとにかく……、
「証拠がほしいです」
話し合うにも、戦うにも、浮気の証拠が必要だ。
「わかりました。僕の友人に便利屋がいます」
「べんりや、さん?」
「何でもデキる男です。探偵や弁護士より頼りになる」
桜志郎の友達なら信頼できそうだ。
費用は結婚前の貯金を使おう。正社員時代のボーナスが少しある。
「お願いします」
香帆は、颯真の浮気調査を依頼した。