コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第4話:再現された英雄
クオンが辿り着いたのは、塔のようにそびえる都市だった。
街の入口には巨大なホログラムが浮かび、市民にこう告げていた。
「我らが守護者、英雄エルダリオンに感謝を!」
その名を耳にした瞬間、クオンの灰色の瞳が細められた。
英雄エルダリオン──かつて戦乱を収め、多くの命を救った人物。だが彼は百年以上前に死んだはずだった。
都市の中央広場。
そこに立つのは堂々とした男。背は高く、白銀に近い灰色の髪を長く伸ばし、鎧のような衣を纏っている。
瞳は深い青緑で、第三の眼は強烈に光り、市民を魅了するような威光を放っていた。
「彼こそがフォージャーの最高傑作、“再現された英雄”だ」
市民の一人が誇らしげに言った。
周囲では子どもたちが歓声を上げ、大人たちは跪くようにしてその姿を仰ぎ見ていた。
群衆を誘導していたのは、英雄再現型フォージャー、ダリウス。
漆黒の外套を翻し、鋭い目つきの男。髪は短く刈り込み、頬には古傷の跡が一本走っていた。
彼は誇らしげに声を張り上げる。
「我々フォージャーの技術で、過去の偉人はよみがえる! 未来を導くのは、造られた英雄だ!」
その言葉に市民は熱狂し、広場は喝采に包まれた。
だがクオンは、群衆の中で立ち尽くす。
冷静な表情の奥で、胸の奥がざわめいていた。
「……彼はもう死んだ。今ここにいるのは“模造品”だ。」
クオンの言葉を聞きつけた近くの市民が顔をしかめる。
「なんてことを言うんだ! この英雄がいなければ、我々の街は崩壊していた!」
ダリウスがゆっくりとクオンに目を向けた。
「異端者か。国家を追われたオーバーライター……噂は聞いている。命を守る? ならば聞こう。本物と偽物の区別に、何の意味がある?」
英雄エルダリオンは群衆の前に歩み出た。
長い外套が風に揺れ、堂々とした声が響く。
「私は“かつての私”を超えるためにここにいる。人々の希望となるために。」
群衆は涙し、歓声を上げた。
それは確かに、人々を導く力を持っていた。
だがクオンは目を逸らさず、その光景を見つめる。
「偽物に未来を託すことは、命を裏切ることだ。」
灰色の瞳と、青緑の瞳が交わった瞬間、広場の空気が張り詰める。
人々が称賛する“英雄”と、孤独に正義を掲げる旅人。
トピオワンダーの社会は、どちらを真実と呼ぶのか──。