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「ヨトゥンヘイムへ行くには、まず最初の銀河の端にある惑星カクタスによりますわ」
ちんすこう達はワープ航行を手に入れるためにヨトゥンヘイムを目指していた。目的地は遠いので、途中で惑星に立ち寄って補給をする必要があるのだ。
「カクタスの名産品は?」
ちんすこうが間髪を入れずに質問をする。その表情は真剣そのものだ。満喫する気だろう。
「なぜ名産品!? 惑星の大部分が砂漠に覆われていて、サボテンのステーキが名物だそうですわよ」
カクタスとはサボテンの事である。そのまんまなネーミングだが、ゲームに登場する架空の惑星名に捻りを入れる必要などないので当然と言える。
「美味いのかね? VRのおかげで食い過ぎで太る心配もないから食べ歩きってのも悪くないよね」
愛玉子も食べる気満々だ。彼女の言う通り、現実で栄養を摂取しているわけではないのでゲーム内でいくら飲食をしても太らない。それでいてちゃんと味は感じるのだから食通にとってはたまらない世界だろう。最大の問題点は味付けのやり方が現実の調理とはかなり勝手の違うものだという点だ。具体的には料理スキルで作り出す。美味さは調理者のスキルレベルによって変わる仕組みだ。
「よーし、サボテンステーキ目指して加速!」
目を輝かせてファイアー号を加速するちんすこう。この食いしん坊め!
「カクタスですわよ!」
遅れないようにマジパンと飛龍も加速し、高速でカクタスを目指すのだった。
◇◆◇
一方、スヴァルトアールヴヘイムではあるプレイヤーがのんびりと宇宙船を改造していた。ミッドガルドでちんすこうと出会った、道明寺である。
「ふんふ~ん、そろそろこの惑星を出てもいい頃合いかしら?」
鼻歌を歌いながら拠点から姿を現わす道明寺。彼女は外の様子にまるで気付いていなかった。異変が起きた事はナビゲーターに聞いていたが、周りで化け物が現れたり山が消し飛んだりしていた事は知らない。
実はナビゲーターの長命寺があえて伝えずにいたのだ。理由は一つ。
「気付くかどうか見ていた」
彼女もナビゲーターでは無くなっており、それまで半透明だった姿がはっきりと実体のあるものになっていた。しかし、その事に道明寺が気付いた様子はない。道明寺が材料を集めて改造をする作業に夢中になっている間に、自分も宇宙船を取り寄せて改造も行っていた。
それでも道明寺は気付かない。
どうやら彼女は何かを始めると周りが見えなくなるタイプのようだ。
「……あら? 長命寺、色が濃くなってない?」
「気付くのおそっ! もうずいぶん前から私もプレイヤーになってるんだよ、宇宙船も改造済みだ」
のんきな道明寺に呆れつつも、現在の状況を簡単に説明した。
「最近の話題は山を吹っ飛ばした宇宙海賊の行方だ。三人組でこの銀河から外に向かう方向――ヨトゥンヘイムを目指すルートへ飛んで行ったらしい」
長命寺の話を聞いた道明寺は、少し考え込んだ。そして、首を傾げながら言う。
「ヨトゥンヘイムってかなり遠いよね。あそこには何があるの?」
腕を組み、ニヤリと笑って答える長命寺。ちんすこう達の目的を推測しているのだ。
「あそこの星には巨人族が住んでいる。その巨人の試練を突破すればワープ航行が解禁されて更に遠くの星系へと向かえる仕組みだ。十中八九、奴らはワープ航行を手に入れて、アスガルドを目指すつもりだな」
アスガルドを目指すと聞いて、顔の前でポンと手を合わせる道明寺。何かに納得したような表情だ。
「なるほど、その海賊さん達はゲームの異変を解決しようとしているのね!」
彼女の顔を見て、不安を覚えた長命寺が尋ねる。
「まさかとは思うが……海賊と手を組もうとか思ってないよな?」
もちろんそのまさかである。この流れで違う事を考えるのはちんすこうぐらいなものだ。
「だって、異変が起こってみんな困っているでしょう? それを解決するのはみんなのためよ。プレイスタイルが違っても、同じプレイヤーだもの。ゲームの危機には力を合わせて立ち向かうべきよ」
道明寺は言いだしたら聞かないという事をよく知っている長命寺は、ため息をついて忠告をした。
「ハァ、仕方ないね。でもあちらは協力する気なんか無いと思うけど」
道明寺はニッコリ笑顔で答える。
「うふふ、一緒に行動しなくても、同じ獲物を奪い合うライバルで良いじゃない? 少年漫画とかによくある展開で最終的には『仕方ねーな』とか言って力を合わせるようになるわよ」
単に楽しんでいるだけの道明寺だが、彼女の提案に反発する理由もない。長命寺は肩をすくめて準備を始めるのだった。