テラーノベル
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同じベッドで、徹は仰向けになり 陸斗は徹に背を向けて寝ていた。
陸斗は、何か大切なものを失った様な喪失感と あまりの衝撃的な出来事に、興奮が冷め切れず 中々寝付けずにいた。
「兄ちゃん…寝た?」
「いや…」
陸斗は寝返りは打たず、体だけをごそっと動かした。
「瀬里香さんがうちへ来るって話…いいの?」
「だってもう決まったんだから、仕方ないんじゃね? 俺はもう、この家には居られなくなったんだし」
「でも、多分 これでよかったんだと思うよ」
「おまえはな。 好きな瀬里香がうちに来てくれることになってよかったじゃん。えっ、もしかして 最初からそのつもりで仕組んだとか?」
陸斗は素直になり切れない自分が、内心では どこか歯痒かった。
「兄ちゃんらしいな」
徹が笑った。
「笑えねぇよ」
ふてくされたように 陸斗が言った。
「…おまえにはさ、プライドとかねぇの?
俺のために医大を諦めたり、瀬里香は俺の妻なのに みんなの前で堂々と告ってみたり…」
陸斗はふと 今2人だから言えるし、前々から感じていたことを徹に尋ねた。
「そりゃ僕にだって プライドはあるよ。兄ちゃんのためとは言え、医大を諦めて店を手伝い始めた頃は 本当にこれで良かったのかって 何度も自分に問いかけたり、悩んだりした日もあったよ。正直、兄ちゃんのこと 恨んだりもした。瀬里香さんへの告白は、兄ちゃんへの抵抗…いや、攻撃 ? うーん 違うな…初めて出した、自分の主張かな」
徹は笑いながら、天井を見つめて言った。
「でも僕は、戻れる場所に救われた。自分の生まれ育った家が商売をしていたおかげで その先の進路に迷わずに済んだ。だから、寧ろ今は感謝してる。歳とった父さんを見てると、やっぱりここに居て良かったなって 最近は特に思うしね」
陸斗は、まるで自分の心のように ぱっちりとカーテンで閉ざされた窓をじっと見つめながら、徹の話を聞いていた。
「とは言っても、兄ちゃんだって 医者になるために 長い間頑張り続けたんだし、ずっと貫き通してるそのプライドは、弟の僕でも 凄いなと思うよ」
徹は陸斗の背中を見て言った。
「ただ、この家に居たら その内きっと、窮屈に感じる日が来る気がする。いくらプライドがあっても、それだけでは切り抜けられないことって あると思うんだ。そんな時に救ってくれるのが 戻れる場所。…安心出来る、自分の居場所なんじゃないかな」
そう言って、徹はまた 天井を見つめた。
「居場所…」
陸斗が呟く様に言った。
「うん。兄ちゃんがいつか疲れた時、ちゃんと戻って来られる場所を 僕は守っていたかったんだ」
徹の言葉を聞きながら、陸斗は心の中でずっと 積み木の様に積み上げてきたプライドが、ころんと1つ 音を立てて落ちた気がした。
記憶の中では ずっと幼いままで留まっていた弟は、知らない内に こんなに大人に成長していたんだな と、陸斗は思った。
微かな寝息が聞こえ出した。
気持ち良さげな徹の寝息を聞きながら、陸斗は静かに目を閉じた。
赤井 里衣
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#ミステリー
コメント
1件
「居場所」という言葉が、すごく沁みました。兄のために道を諦めた徹が、今度は兄の帰る場所を守ろうとしている――その視点の切り替わりが美しくて。陸斗が弟の成長に気づくシーン、積み木が一つ落ちる比喩がぴったりでした。兄弟の距離感がぎこちないのに確かな信頼で結ばれている感じ、素敵です。