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※この作品は完全なフィクションです
※ご本人様・関係者様とは一切関係ありません
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※この作品は完全なフィクションです
1話:微かな歪み
放課後を知らせるチャイムが校舎に響き渡ると、吉田は誰よりも早く鞄を手に取った。
周囲の生徒たちが談笑しながら帰り支度を始める中、なるべく目立たないよう、すばやく教室の裏口へと向かう。
「吉田、ちょっといいか?」
教壇の方からかかった声に、吉田の足がぴたりと止まった。 振り返ると、担任で数学教員の佐
野先生が爽やかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
整った顔立ちに柔らかい物腰。他の生徒や保護者からの信頼も厚い若手教師だ。
「今日の小テスト、最後のアプローチが惜しかったんだ。少し補足説明をしたいんだが……放課後、時間あるか?」
「いえ、今日は塾があるので帰ります」
吉田は視線を少し低くしたまま、短く答えた。
だが先生は「そうか」と言いながら教壇を離れ、自然な動作で吉田との距離を詰めてくる。
「塾の時間は17時からだろ? 15分で終わるよ。職員室だと周りがうるさいし、準備室で静かに教えるから」
先生の手が、親しげに吉田の肩へ置かれた。
その瞬間、吉田の背筋に冷たいものが走った。
置かれた手のひらから伝わる体温が、たまらなく不気味だった。教員が生徒の勉強を気にかけるのは珍しくない。しかし、先生の視線はいつもどこか違っていた。親身な教師の顔の裏で、自分だけをじっと観察し、二人きりになる機会を伺っているような粘着質なナニカ。
「……大丈夫です。自分で解き直せますから」
吉田は息を殺しながら肩をすくめ、先生の手を交わすように一歩引いた。制服のポケットの中で、左手の親指の爪を人差し指の皮膚へ強く、痛みが走るまで押し付ける。そうでもしていないと、全身を襲う強い吐き気を抑え込めそうになかった。
「そんなに遠慮しなくていいのに。俺は吉田の力になりたいんだよ。特別にな」
先生は嫌がる様子を一切気に留めず、むしろ愛おしそうな目を向けてさらに一歩近づいてくる。
「特別」という言葉が耳に触れるたび、胃のあたりがギュッと絞られるように痛んだ。
クラスの他の生徒が質問に行っても短く済ませるくせに、吉田に対してだけは執拗に時間を割こうとする。
周囲から「佐野先生、お前のことお気に入りすぎだろ」とからかわれるたび、自分が逃げ場のない檻に閉じ込められていく感覚に陥った。
「失礼します」
吉田は頭を下げると、先生の返事を待たずに早足で教室を飛び出した。
廊下を歩く間も、先生の視線が背中にへばりついている気がして呼吸が浅くなる喉の奥が引き攣り、冷や汗が制服のシャツを湿らせていく。胸の圧迫感に耐えかねて胸元を強く掴みながら、吉田は逃げるように校門を目指して駆け出した。
自分が感じているこの強烈な気持ち悪さは、ただの自意識過剰なのだろうか。それとも――。
手の中に残る爪の痕の痛みに耐えながら、吉田は校舎を振り返ることなく走り続けた。
next…
コメント
1件
読み終えました。第1話、とても静かで重い空気が伝わってきました。 吉田くんの「親指の爪を押し付ける」という小さな仕草に、彼の精神的な苦しさが凝縮されていて印象的でした。佐野先生の「特別にな」という言葉の裏にある粘着質な視線――「親身な教師」の仮面と、その奥の気配の描き分けが巧みで、読んでいるこちらも息苦しくなりました。 続きがとても気になります。この「歪み」がどこへ向かうのか、じっくり追いたいです。
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縁en
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