テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
存在意義、存在価値、存在理由…。全て、どれも明確にわかっていない。何のために存在して、何のためにその場にいるのか。
それでいて、何でその席は空いてるくせ座ったらほんの少し居心地が悪いのか…何も、分からない。
車の中、不気味な静けさが漂う中で、俺は1人でそう考え込む。何でこんなにも痛いのか。歓迎されているように見えて、俺にとっては地獄の沼へとはまっていくような感覚にしか感じなかった。
「…トラゾー、大丈夫?」
「───え?な、何が?」
ふと聞こえた声に、俺の意識は浮上する。
大丈夫だ。信号は赤で、ちゃんとブレーキも踏んでいる。そう一通り確認した後で、質問の意味がよく分からなくなり相手にどもりながらも直接聞く。そんな俺の状況を察したのか、ぺいんとは窓の外の景色を見てため息を吐く。
「……なんでも。ちゃんと言わなきゃ、わかんねーからな。」
意味深な言葉を吐いたぺいんとに、俺の目はなぜかそちらに惹かれてしまう。ひどく暗い紺色をした空に数多に広がる三原色に光る信号機。そのほかにも、お店の酷く眩しい電気だったり、家から漏れる暖かな暖色の光に俺は目が眩む。それと同時に、窓の反射に映るぺいんとの顔はぺいんとの口から漏れる吐息で窓は白く曇り、顔はあまりよく見えなくなっていた。
その間にも、赤色に光っていた信号機は消え、次に黄色へと点灯をした。「あっ」と声を上げ、信号機が緑になってから周りを確認し、車を発進させる。
……………
「……っ。」
ぺいんと宅の前に到着し、酷く明るかった周りは不気味なほどに静かな空間へと変わっていた。閑静な住宅地に住む彼にとっては、何とも思わないだろうけれど。
それに、なぜか───酷く、胸が痛い。息を呑むように、俺は吐き出そうとした言葉を飲み込む。
助手席に座るぺいんとは荷物を持ってからシートベルトを外し、ドアハンドルを掴んでからこちらを振り返る。
「…じゃあトラゾー、またな。」
優しい声色に、また胸がじんと痛くなる。いつもよりも微かに低いトーンの声は落ち着き、心臓の動悸も不思議と落ち着く。
それなのに、その先の言葉が出ない。
出さなきゃならないのだ。ありがとうと感謝を伝え、今日は楽しかったと感想を述べ、あの事ごめんと謝罪をし、また撮影でと別れの挨拶をするべきなのに…なぜか、それらの言葉が喉につっかえた。
つっかえた言葉達は俺の胃を刺激し、呼吸を乱す。まるで喉に小さな飴でも詰まったかのような感覚に、少し焦りを覚えた。
「───っぁ。」
何とか声を出さなければ、と思い振り絞って出た声は、ただの小さく掠れた声。それと同時に、何かを悟ったかのような声色に、俺自身までもが焦ってしまう。
「ちょっ、トラゾー?!」
あまりの目眩に、俺は目を瞑る。その代わりと言ったように、激しい耳鳴りが俺を襲い、酷い頭痛に苛まれた。
───そこで俺は意識を失った。
…………………………
「え、ええと……意識、失っちゃって!!…はい!」
スマホを取り出してから画面を開き、俺───ぺいんとはすぐさま”119”と画面に打ち、連絡をした。何回かの低いコール音が鳴った後、ガチャリと音を立てた次には少し落ち着いている声の男性が電話を出た。俺は慌てふためきながらも状況を確実に伝えようと必死に言葉を紡ぐ。
しばらくの長い電話を終えて、俺はトラゾーの安否確認をする。口や鼻に手を当て、息を吸っているか、吐いているかの確認をしてから心臓の音を聞く。
意識を失ったくせ、安定した心臓の音が聞こえ、俺は一時的にだが安堵した。
(…あと4分。)
救急車が来るまでは、約4分。この4分も、焦ったいのだと改めて思う。それでいて、自分がいつもこの4分はトラゾーと連絡したり、しにがみと遊んだり、クロノアさんと買い物したり…ほんと幸せな4分なのだろうと考える。
そんな4分が、今で言うと心臓が張り裂けそうな4分だ。
「連絡しなきゃ。」
これは、彼自身の問題で片付けられないのだ。片付けることのできない問題なのだ。
なぜかって、全員もトラゾーと同じだから。
トラゾーと同じだからこそ、今のうちに頑張らなければならない。だから───
「───もしもし、しにがみ?今大丈夫?」
『はい!バッチリ寝てたので大丈夫です!どうしたんですか?』
いつも笑わせてくるしにがみに、この活気のいい声のしにがみに、俺は元気をもらってしまう。また、もらってしまっている。
「急ぎだから、一気に説明するね。よく聞けよ。」
そうして、俺は事情を一気に説明した。本当に、一気に。一文字もかけることはせず、ただただ焦りの含んだ声で。声は震え、手は落ち着かず、足は今にでも走り出しそうだ。それでも相手にはバレぬよう努力した。
『───・・・なるほど。クロノアさんに伝えておきますね。』
「助かる。」
お互いに話し終えたところで、遠くから救急車のサイレン音が周辺に響き渡る。
「じゃあ、もう時間だから。」
『わかりました!』
早くに電話を切り、スマホをポケットへしまう。そうして車の扉を開けてから、救急隊の人たちに見えるように大きく、大きく手を振った。
ただがむしゃらに、背伸びをして。