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世界中のニュースサイトが『伊藤ホールディングス総裁伊藤定正』の悲報を大見出しで報じた
定正の写真があらゆる媒体で飾られ、どのニュースサイトも定正の笑顔が映し出されていた、しかし、幹部の配慮で鈴子や子供達の写真だけはなんとか公表しないように配慮してくれた
弔電や悔やみの手紙が国中のあらゆる階層の人々から鈴子の元に送られてきた、総理大臣や世界各国で定正が付き合いをしていた王族まで、世界各国の富豪や政治家達からも定正の死を惜しむ言葉が鈴子の元へ届けられた
どのネットワークも平成、令和の日本の食品業界の繫栄を陰で支えて来た彼の業績を称える特別番組を作って放送していた
日本の経済界は定正というかけがえのない人物を失ったのだ
伊藤ホールディングスは今や幹部連の中でも増田が中心になって会社を運営していた、一昔前は会社の経費不正利用などの事件を起こした彼だが、それでも自分を見捨てなかった、初代会長の定正に今では父親のような忠義を感じ、恩を忘れたことはなかった
そして定正の臨終時の彼の誠意ある態度が鈴子との信頼関係を回復させていた
彼は何かと鈴子のサインをもらいに奈良の屋敷に書類を携えてやってくる度に、定正という大切な人を失ってしまった鈴子の無気力状態を見て心を痛めていた
「あなたは本当に会長を尊敬していましたね、俺もそうでした・・・」
鈴子はリビングでお茶を飲む増田に言った
「あの人ほど利口な人は他にはいないし、これからも現れないでしょう・・・あの人はいつも公正だったし、親切で強い人だったわ・・・」
いつだって私の大切な人は私から遠ざかっていく・・・
パパ・・・兄さん・・・定正さん・・・
増田が鈴子の落胆ぶりを観察しながら、静かに飲んでいたティーカップをテーブルに置いた
「そうですね・・・会長よりも偉大な人物は俺も見たことがありません、しかし会長程はいかなくても、それに近い器の人物は知っていますよ」
「まぁ・・・それはどなた?」
「俺の目の前に」
鈴子と増田は見つめ合った、増田は微笑んで続けた
「隠居するには若すぎやしませんか?」
そして彼女は自分の運命を悟った