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【10年後】
伊藤ホールディングス名誉会長、伊藤鈴子、今や彼女の名前は、冷凍食品から始まって鉄道、不動産、金融までを網羅する日本を代表する巨大企業グループの頂点に刻まれていた
従業員2万人を抱えた国内外でその名を知らぬ者はいないモンスター企業の頂点に君臨する彼女
定正の死から10年・・・鈴子はその定正の遺志をしっかりと継ぎ、悲しみを力に変えてこの帝国をさらに拡大させていた、そして鈴子の隣には、40%以上の自社株を持ち、伊藤ホールディングスの(CEO)として辣腕を振るう増田がいた
かつて定正に救われた男は、今、鈴子の最も信頼するパートナーとして、彼女のビジョンを支えていた
奈良の生駒市を見下ろす定正の壮麗な本屋敷から、鈴子は子供達と家政婦を連れて、かつて自分が育ったあの悲しい屋敷・・・六麓荘の屋敷を買い戻した、今やここが鈴子の拠点となっていた
2人の息子はスクスク育ち、今年から鈴子と同じ様に有名寄宿学校へ入学していった、今や子育てにも何にも縛られなくなった鈴子は彼らの未来と定正の夢を守るため、今日も戦場の様な一日を駆け抜けていた
鈴子の一日は早朝から始まる
午前5時・・・朝靄が漂う六麓荘の屋敷裏庭・・・鈴子は運動着に身を包み、トレーナーと朝のトレーニングを始める、冷たい空気が肺を満たし、彼女の心を研ぎ澄ます、ここ10年間、定正の突然の死で打ちのめされた鈴子だったが、身体を動かすことで自分を奮い立たせてきた
午前7時・・・屋敷のリビングの隣に設置されたネット配信用簡易スタジオで、鈴子は地上波放送の『朝イチ経済ナビ』にリモート出演した、そしてカメラの向こうで日本の視聴者に伊藤ホールディングスの新たな海外進出計画を語った
『私達の使命は、食とインフラを通じて人々の生活を豊かにすることです・・・』
スーツ姿で流暢に配信カメラ後ろのカンペをスラスラ語る彼女の姿は、10年前の定正が死んだ当初の自分を知る者なら驚くほどの変貌だった