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#謎解き
井川奎
121
#バディ
井川奎
159
#謎解き
井川奎
42
るる
136
「晴人!なんか、俺、混乱して来た!」
手紙に目を通した明は、困惑を隠しきれない。
「何だよ!これ!」
「まあ、見た通りという訳だ」
晴人は妙にあっさりしている。
「待って!私にはさっぱり分からないんだけど!」
側で雅子が愚痴る。明だけ手紙を読んでいるからだ。
「ああ、雅子、君も知りたいかい?」
「そりゃあ、知りたいわよ!」
すねる雅子に晴人は、
「まあ、してやられたというところかな」
ふっと、何がおかしいのか晴人は微笑む。
「そんな笑う余裕、よくあるなあ」
明の苛つきに、まあな、と晴人は答えるが、マスターにコーヒーを注文した。
「いや、コーヒーなんか!」
じれる明に晴人は、
「ちょっと複雑な話になりそうだし、コーヒー片手に語り合うというのがいいんじゃないのか?」
などと、相変わらず余裕を見せた。
「まあいいわ。じゃあマスター!私もコーヒーのおかわりを!」
雅子は、すっかり話を聞く体制を整えている。
うん、と、晴人は頷くと、ゆっくりと事の顛末を語り始めた。
「……つまり、中村達夫は、彼女の夫の名前で、明と訪ねてた時に出てきた男が、中村達夫本人だったんだ」
「なるほどなあ。って、はあ?俺、まだよく分からないんだけど」
「田村さん、相手からの手紙読んでるんでしょ?」
困り切る明に、雅子が言う。
「……手紙には、夫の名前を借りたと書いてあったな……」
明は、自分なりに整理しようと考え込んでいる。
「そう、彼女、中村達夫の妻は夫のふりをした……理由は、行きがかり上というべきか、俺から手紙が届いたからか……」
「まあ、そこよ。わからないのは。なぜ、夫の手紙を妻が受け取るの?なぜふりをしていたの?」
雅子が身を乗り出す。
「手紙によると、夫に揶揄されたらしい」
「……女だてらに哲学書を読み漁るなどと……らしいぜ?」
明が手紙を読み上げた。
「はあ、なんだかまどろっこしいわね。私にも手紙を見せてよ!」
「ああ、構わんよ」
晴人の一言に、明は雅子へ手紙を渡した。
受け取った雅子は、しばらく黙って手紙に目を通した。
「……なるほどね」
言って、晴人へ手紙を差し出す。
「つまり、夫である中村達夫に、女が哲学書なんてと揶揄された。きっと、口論になったのでしょうね。そして、夫はそんな本が目障りだと言い放つ。よくありそうな話だわ」
やれやれと、雅子も何か思い当たる節があるのか、肩をすくめた。
「……なんだか、彼女の気持ちもわからなくはないわね。その後、仕方なく書物を古本屋に処分した。夫といさかいを起こしたくないものね。でも、好きだったものを取り上げられて、悔しかったでしょうね……」
「そうだろうね。だから、とっさに、本に中村達夫と署名したのかもしれないな……」
晴人はそっと言うとコーヒーを一口飲んだ。
「ねえ!彼女、誰かと繋がり持ちたかったんじゃないの?本には書き込みがされていた。それを見て、気がついてくれる人を探していたんじゃない?」
「それは、雅子、君の考えだろ?真意は分からんよ」
雅子の推理に晴人は即釘を差した。
「ああ……で、思いがけず晴人から手紙が来たもので、引くに引けなくなって、中村達夫の名前で文通してしまったと……」
明も、やっと分かったとコーヒーをすする。
「そういうこと」
文通相手、中村達夫の妻は、まさか晴人が会いたいと言って来るとは思っていなかった。しかも、断ったにも関わらず、家へ押しかけてきた。
とっさに、夫に文通のあらまし、名前をたばかっていた事がバレてはと、晴人たちを追い返そうとしたが、夫が出てきてしまった。
そして、知らぬ存ぜぬで通しきったという訳だ。
「流石に、追い返したままでは気が咎めたのか……こうして種明かしの手紙が届いたという訳だ」
晴人が、話をまとめる。
「なるほどなあ」
明もやっと納得したようだ。
「それで?」
雅子が意味深に晴人を見た。
「あなたどうするの?」
どこか嫌味毛のある笑みを雅子は浮かべていた。
空々しいそれに晴人も気がついたようで、
「……何もしないさ。もう文通も終わったことだし……」
素っ気なく言いながら、懐を弄りタバコを出した。
「……落ち着かないのね?」
ふふふ、と雅子は笑いながら灰皿とマッチを用意してやる。
「別に……」
煮え切らない晴人の返事に明が眉をひそめた。
「……晴人。手紙の最後にも文通は終わりだと書いてある。それに、悪いが、たかだか本についての感想を言い合ってる、それだけだろ?」
と、なぜか強い口調で明は晴人を責め立てる。
「まあ、それを討論というんだけど。ハマるとやめられないわよね?」
雅子は明の口調を追うように、やや、からかい半分で晴人を見た。
「ああ、わかっている!相手は人妻だからね」
晴人は、声をあげる。明と雅子へ抗議するかのように。
「そうだぜ!晴人!誰と文通しようが構わないけど、相手は人妻だ。それも夫を騙してるわけだろ?まずいぜ?」
そこまで言って、明は、晴人をしっかり見た。
「なあ、もし、このことが夫、中村達夫にバレてみろ。何もないとは分かっているが……何か夫に勘ぐられたら……」
「厄介なことになるのは分かっている」
言って、晴人はタバコを咥えると、マッチを擦った。
「雅子さん!」
「わかってるわよ。田村さん。まさか人妻だとは思ってなかったのだから。私は、嫉妬も何もしていないわよ?」
平然と落ち着いている雅子に、明も安心したようで、再び真顔で晴人を見た。
「晴人!とにかく、もう手を切れ!くどいが夫にバレてみろ!」
「そうねえー、姦通罪だなんだって訴えられるかもしれないしね」
雅子が、意地悪く口角を上げる。
「いや!雅子さんっ!」
明が、洒落にならないと慌てた。
「ふふ、冗談よ」
言って雅子は、すました顔でコーヒーを飲んだ。
「……観劇をすっぽかされた事、覚えてる?」
そして、少し上目遣いで雅子は晴人を見る。
「それで、手を打つわ……」
それだけ言うと、素知らぬ顔でまたコーヒーを飲んだ。
「そうだ!そうだ!晴人!雅子さんと観劇へ行け!浅草オペラだ!」
「それは、田村さんと行ったもの」
笑いを堪えながら雅子は首を傾げている。明の動揺が、あまりにもおかしかったのだ。
「……観劇か。それもいいな」
晴人は、灰皿にタバコの灰を落としながらポツリと言う。
「そうしとけ!晴人!悪いことは言わない!」
「あら、観劇って、悪いことなの?」
「いや、そうじゃなくって。雅子さん!!」
返事に困っている明に、雅子は声をあげて笑った。
了
コメント
1件
第5話読みました! なるほど、中村達夫の妻が夫のふりして文通してたんですね…最初混乱したけど、女だてらに哲学書って揶揄われた悔しさで署名しちゃったっていう心理、なんかリアルで切なかったです。晴人の余裕ぶった態度と、明の心配そうな感じ、雅子のからかい混じりの視線、3人の掛け合いが絶妙でした。最後の観劇の流れ、好きです。読んでてほっこりした🌙